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sora tob sakana「World Fragment Tour」レビュー(前半) ~新たな旅への門出~

sora tob sakanaのアルバム<World Fragment Tour>のレビューをさせていただきます。

 

*全曲のレビューをこの1つの記事でしようと思っていましたが、量が多くなってしまったので、前半・中盤・後半に分けました。

 

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sora tob sakanaのレビューをするのは初めてになります。例の如く、私とsora tob sakanaの馴れ初めから書きたいと思います。

 

 

sora tob sakana との出会い

もともとはハイスイノナサ(sora tob sakanaのプロデュースを行っている照井順政さんが所属するバンド)に興味を持っていて、その頃からオサカナの潜在的なファンではあったわけですが、オサカナ自体にちゃんと興味を持ったのは、「広告の街」の本人演奏動画を見てからですね。

 

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ハイスイノナサ自体は、学生時代に通い詰めていたTSUTAYA「動物の身体」というアルバムを「ジャケ写買い」ならぬ、「ジャケ写借り」をしてからですね。

 

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CDジャケット ‐ ハイスイノナサ「動物の身体」

「動物の身体」というタイトルもお洒落でカッコイイと感じました。YouTubeで「地下鉄の動態」のMVを見たときは衝撃を受けましたが、実はハイスイノナサはあまりにMath Rock的過ぎて私の理解が及ばず、若干敬遠していた部分もありました。ちなみに、私が今でもハイスイノナサの曲で一番好きなのは、上記アルバムに収録されている「森と照明」ですね。複雑な楽曲でありながら、湿度高めのしっかりとした雰囲気を持っているので、あまりMath Rock然としていないところが、私にも理解が出来て好きなんだと思います。

しかしながら、私が凛として時雨の大ファンであることから、アニメ東京喰種のオープニングとエンディングで凛として時雨ハイスイノナサが共演みたいなことになっていたのは、結構衝撃的でした(東京喰種の作者である石田スイ先生は、自分でテーマ曲を手掛けるアーティストを選んでらっしゃるとかで、かなり趣味が近い方なんだなぁ、と勝手に思っています。たしか私がこれまで何度かレビューを行ったバズマザーズも好きということで。まぁ、その界隈のアーティストが好きな人は、みんな同じような趣味を持っていそうなものですが)。

話が長くなりましたが、その頃に、どこかで「sora tob sakana」というアイドルの話も聞きました。私が新しいアイドルの情報を仕入れるのは、大抵がアイドル三十六房かピエール中野さんの対談かその辺ではありますが。ただ、その頃は「面白いアイドルがいる」程度のものであまり気にかけてはおらず、やはり決定的だったのは前述の「広告の街」の本人演奏動画。それを見て初めて、sora tob sakanaハイスイノナサが私の中で結びつきました。

それから気になりだして、結果的に私がsora tob sakanaにハマったのは、メジャーデビュー1st EP<alight ep>を買ってからですね。まずは「Lightpool」のMVを観て度肝を抜かれ、EP購入を即決しました。そして、同EP収録の「鋭角な日常」でさらにハマってしまいました

 

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このMVは本当にお洒落でカッコイイですよね。それでいてポップなため、とても聴きやすく、それまでちょっと理解に苦しんでいた照井順政さんの世界観をオサカナという側面から少し理解できるようになった気がしました。Maison book girlとかにも言えることだと思いますが、前衛的な作家性を持っている人がアイドルという枠組みで表現する楽曲が私は好きです。私のような音楽素人が受け入れられるポップさが生まれるからだと考えています。

そして、オサカナだけに限らず、アイドルという枠組みで好きなのは、パフォーマンスしているアイドル本人たちの成長が見て取れるところですね。だからこそ、ハロヲタなわけではありますが、初期のオサカナと、最新アルバム<World Fragment Tour>を比べれば、そこにはオサカナたちの成長が見て取れ、それがまたアイドルとして彼女たちを好きになってしまった理由であります。

 

さて、前置きはこの程度にして、アルバム<World Fragment Tour>のレビューに入りたいと思います。

 

◇ アルバム<World Fragment Tour>の概要

一言でいえば、「門出」という感じのアルバムのように感じました。

*アルバム付属のブックレット内には、照井さんを含めた制作陣のインタビューが掲載されており、また照井さんによる全楽曲のレビューが1曲ずつ掲載されてもいます。私の書くレビューよりはまずそちらを拝見されるのが一番良いと思います。というのも、私が感じた印象はほとんど、その照井さんの言葉と同じようなものであるからです。

「門出」という単語はたしかブックレット内のインタビュー・レビューには書かれていなかったと思いますが、照井さんが強調されていた「『世界観』から『メンバー』への立ち位置の転換」という本アルバムの主軸を、私なりに「門出」と再表記させていただけになります。

 

まずは、アルバムタイトルの「World Fragment Tour」=「世界の断片旅行」について。「世界旅行」という言葉から連想するのは、あるいは「多様性」のようなもので、「多種多様な楽曲アプローチ」というイメージかもしれません。ハロプロのアイドルであるJuice=Juiceの初期はファンク・ジャズ・フラメンコ・タンゴのような様々な音楽ジャンルのアプローチがありました。これも一つの世界旅行の形。

しかしながら、本アルバムで提示されている「世界」とは、まさにアルバムジャケットのような虹色に輝く世界です。

 

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アルバムジャケット ‐ sora tob sakana<World Fragment Tour>

 

それは現実の世界の多様性というよりはむしろ、オサカナたち、つまりアイドルとしてのメンバーの様々な側面を表現するための虹色であるような感じになっています。

「メンバーの個性を引き出すための断片=楽曲を鑑賞するツアー」

それが本アルバムである<World Fragment Tour>の意味だと私は解釈しています。ブックレット内でも、何度も「オサカナたちの成長・自我の発露」というような話題が登場してきます。これまでは、照井さんが緻密に構築したオサカナの「世界観」がsora tob sakanaの楽曲の主軸になっていました。それは「アイドルを売る」という興行的な目的のために取られた手段でありながら、作品を作品として成り立たせるために取らざるを得ない選択であったはずです。つまり、厳しいことを言うようですが、表現者としてのスキルが当初の彼女たちには足りない部分があり、それ故にがちがちに構築された「世界観」を軸にしなければならなかったということです。

ほぼ同じような時期から活動を続けるMaison book girlも最近のインタビューで、「メンバーの表現者としての成長が楽曲を一層深くした」という内容が語られていました。メンバーからも「初期の作品は録り直したいくらい」という発言が出ています。sora tob sakanaについても同じようなことが言えるのではないかと思います。

正直なことを言えば、<alight ep>まではまだギリギリ「照井さんが純朴な女の子たちを使ってアイドル・ポストロックを表現している」という印象でした。もちろん、オサカナたちの個性は楽曲の魅力にさらなる磨きをかけていましたが、やはりそうは言っても、「これはこういう楽曲」という「世界観」が先行していたように思います。

それが前作<New Stranger>に収録されている「silver」というわりとシンプル目でありながら、お洒落なテイストになっている楽曲(実はsora tob sakanaで1番好きな楽曲)を聴いたときに、かなり覆されました。「あれ、これオサカナたちの声だけで楽曲が成立してない?」と感じたのです。もちろん、楽曲自体はめちゃくちゃお洒落でそれだけで魅力的なんですが、まさに<World Fragment Tour>のブックレット内で照井さんが語ったような「『世界観』から『メンバー』への立ち位置の転換」を感じたわけです。オサカナたちの個性が先にあり、楽曲はあくまでそれを効果的に引き出すための触媒でしかない。いや、それでは楽曲が可哀想。パワーバランスで言えば、「歌手:楽曲」=「5:5」という理想的な形だと思いました。

そして、そこからアルバム<World Fragment Tour>に繋がります。

個人的な心象では、本アルバムのパワーバランスは「歌手:楽曲」=「6:4」くらいでしょうか。いや、もちろん、どの楽曲もしっかりと構築されていて素敵ですが、MVにもなっている「knock! knock!」を除けば、どれも楽曲の力点が、「世界観の構築」ではなく、「メンバーの個性の発露」という部分にあるように感じられました。

それは作曲が照井さんでない楽曲が3曲もあるということに理由があると思います。sora tob sakanaというアイドルは前述のとおり、照井さんの世界観ありきでした。当然、客員作曲家的に作曲を担当した方々は、そんなsora tob sakanaの世界観をある程度踏まえた上で楽曲を作っていくことになるわけですが、他人の世界観を簡単に模倣できるわけはありません。それに、照井さんの世界観を真似しただけの楽曲を作るなら、最初から照井さんがそれを作ればいいわけです。ですから、外部作曲家の方々は「メンバー」から滲み出た「sora tob sakana感」を足掛かりに楽曲制作にあたったと思われます。

それにプラスして、照井さん自身もメンバーたちの成長・自我の発露を認め、それを活かすような楽曲制作をしたいと考え始めます。そのようにして、本アルバムは「sora tob sakana」というアイドルグループが持つ、潜在的な「世界観=World」を表現するための「楽曲=断片=Fragment」を主軸においたものとなりました。そして、当然グループの持つ潜在的な世界観とは、「メンバーたち」ということになります。

そんな「オサカナたちの個性を楽しむツアー」が本アルバム<World Fragment Tour>になります。

主軸の転換が起こり、そこからの新たな始まり、つまり「門出」。それを祝うような、そんなアルバムです。

 

さて、ここからは1曲ずつ簡単なレビューをしていきたいと思います。前述のとおり、アルバム付属のブックレットに照井さん本人によるレビューがあるので、そちらの方を参考にされた方がいいとは思いますが、まことに恐縮ながら私もいくつか感想を書かせていただきたいと思います。

 

M1.whale song

sora tob sakanaがライブなどで出囃子として用いているのがこの楽曲になります。ライブが始まる直前の高揚感。それが本アルバムにおいては、「世界旅行」が始まる前の高揚感に置き換わって、効果的に機能しています。

およそ1分30秒という短さでありながら、きっちりと計算された展開を持っている楽曲。鯨の鳴き声のように聴こえる抽象的な音像と、煌めくようなピアノの音。そこに力強いドラムが加わって、ある種「We Will Rock You」的な高揚感を引き出していきます。そして、一瞬ドラムが鳴り止み、ピアノだけの旋律。研ぎ澄まされる緊張感。そのすぐ後には、その緊張が弾け、実に美しい旋律で色鮮やかな世界を描かれていきます。楽曲はクライマックスを迎えながらも、次の展開を予感させるように静かになっていき、出囃子としての機能を全うして終わります。

個人的に感心するのは、「よくこの楽曲を今まで取っておいたな」ということです。まるで、いずれ「World Fragment Tour」というアルバムを作るだろうから、それまでは音源化せずに取っておこう、とあらかじめ計算していたかのようにさえ思えます。

前述したとおりですが、まさに「世界旅行」の「門出」に打ってつけの楽曲になっています。

 

M2.knock! knock!

この楽曲はMV化もされていますね。

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「モノクロの毎日に色を添える 夢見るプラネット 巡る素敵な旅」 

 という歌詞から始まっています。新たな世界への扉を「ノック」するような好奇心に溢れた楽曲。MVにもあるように、新しい世界には見たことのない美しいものが沢山存在しています。ですが、全てが新しく摩訶不思議なものというわけではなくて、そこには確信犯的に懐かしい風景も含まれています。その「新しい世界の摩訶不思議さ」と「牧歌的な懐かしさ」のようなもののバランスがこの楽曲の肝となり、歌詞・楽曲構成・メロディライン・MVの全てに現れています。

まずは、楽曲構成について。

簡単にまとめると、

「Intro⇒A⇒B1⇒間奏⇒C⇒D⇒B2⇒間奏⇒C⇒B3⇒間奏」

という構成になりますね。

この構成自体がまず素晴らしいです。前述の「摩訶不思議さ」と「懐かしさ」をブレンドしたような構成になっています。詳細の説明は後にしますが、前衛的なメロディラインを持つ「Intro」と「Aメロ」、そして「Cメロ」。対して、どこか懐かしく親近感のあるメロディラインを持つ「Bメロ」と「Dメロ」、そして「間奏」が、綺麗に織り重なっているような楽曲構成です。

 

ファンがこの楽曲が好きになる理由のおよそ90%が印象的な「間奏」にあると、私は勝手に考えています。全体的に近未来都市的な雰囲気を持つ音像が特徴的な本楽曲の中で、この「間奏」はアラビアンナイト的な「古いタイプの摩訶不思議さ」を演出しています。

そして、そんな「間奏」を入れ込むタイミングがまた憎い。一般的なJ-POPなら、サビにあたる「Cメロ」が終わった後に、「間奏」は挿入されます。しかし、この楽曲ではなぜか「Bメロ」と「Cメロ」の間にほとんど「サビ」として楽曲を印象付けているこの「間奏」が挿入されています。これにより、全体的には「A⇒B⇒サビ」と進行していく従来のJ-POP的な構成が僅かに崩され、心地よい違和感を生み出しています。

そして、YouTubeのコメント欄にもいくつかありましたが、この楽曲の中で実は1番キャッチ―なメロディを持っているのは「サビ」の箇所に当てはめられている「Cメロ」ではなく、むしろ「Bメロ」なのです(まぁ、キャッチ―か否かというのは「どれだけ耳馴染があるか」という観点から主に論じられることなので、決して「Cメロ」のメロディが劣っているというわけではありません)。そして、そんな「Bメロ」と「Cメロ」の関係性の「ねじれ」のようなものを抱えながら楽曲は進行していくわけですが、最後にはそんな1番キャッチ―なメロディラインを持つ「Bメロ」が登場して楽曲を盛り上げて終わっていきます。この構成も素晴らしいです。

この「Bメロ」の扱い方については、最近のモーニング娘。に見られるつんく♂さんの「最後の最後までサビをサビとして機能させない」という手法と似たものを感じます。つまり、「B1」では完全にビートを消しており、「B2」では「Dメロ」の乗り物をそのまま引き継いで、「ロー(Low)」なニュアンスを保っています。ですが、最後の「B3」では「C」の「アッパー(Upper)」な感じのリズムに乗って、きちんと「サビ」として機能させている訳です。あぁ、なんて憎たらしいほど考えられた楽曲なんでしょう。

と、ここまではこの楽曲のわかりやすい魅力について語って来ましたが、実は私が1番語りたかったのは「Dメロ」についてです。一聴しただけでは、「Cメロ」のサビが終わってまた「Aメロに戻ったんだな」としか感じないかもしれませんが、よくよく聴いてみると「Aメロ」とは全く異なるメロディラインを持っています。故に、上でもあえて「Dメロ」と表記させていただいています。

この「Dメロ」が非常に曲者です。「間奏」はアラビアンナイト的な印象が強く、多くの人が「好き」と思えるようなフックだと思います。そして、最後には「サビ」に変貌する「Bメロ」も、キラキラとしていてsora tob sakanaらしい無垢さを感じるメロディラインであるため、オサカナファンが好きそうな感じになっています。が、そんな特徴的なパートに紛れるように、この気怠い感じの「Dメロ」が挟み込まれているわけです。

全体的に浮遊感たっぷりで摩訶不思議な世界観を持つこの楽曲において、この「Dメロ」だけはどこか「リアリティ」があり、確かな陰影を感じます。ちゃんと聴いてみるとそこまでアイドルっぽさもなく、個人的にはJ-Rock的な感傷性すら感じます。批判を恐れずにもっと言うのであれば、フラワーカンパニーズの「深夜高速」の「Aメロ」みたいな感傷性を感じてしまうのです。この「Dメロ」がこの「knock! knock!」という楽曲の中央に位置することで、全ての奔放なパーツを引き留めて、私たちの心にすっと入って来るための重要な機能を持っていると感じるのは私だけでしょうか。この「Dメロ」があるからこそ、私たちはこの楽曲に共感できる……私はそう思います。

ちなみに、前述のとおり、sora tob sakanaの中でも私は「silver」という楽曲が好きです。あの装飾が少なく、どこか気怠く、陰影に富んだ雰囲気がたまりません。

よく晴れた日の学校の中庭。その中で校舎の影に埋もれている静かなベンチ。

そんなような感触があるこの「Dメロ」。この「Dメロ」の特に好きな前半部を歌っている神﨑風花ちゃんの歌声もとても雰囲気にあっていて素晴らしいです。正直、私の中でオサカナは楽曲が先行していて、メンバーである彼女たちにはそこまで興味を惹かれていなかったのですが、この「Dメロ」で一気に風花ちゃんのファンになってしまいました(呼び方は「風花ちゃん」で良いんですかね? 初心者ですみません)。

と、想定よりもやや長くなってしまいました。できるだけ全ての楽曲のレビューをしたいので、「knock! knock!」に関してはこの程度にしておこうと思います。

 

M3.FASHION

イントロは複雑なポリリズムで構成されており、様々な楽器が自分勝手なリズムで鳴らされており、この辺りは「さすがMath Rockをしてる人」という感じです。まぁ、照井さんは「Math Rock」と括られるのが嫌なんでしょうが(照井さんに限らず、誰だってカテゴライズされるのは嫌なはずです)、それでもこれを聴いて「Math Rockではない」と言うこともまた難しいように思います。

そして、「Aメロ」は「ファッション」という言葉の通り、軽やかでポップかつ、洒落たビートを持っています。対して、「サビ」はマイナー調で伸びやかなメロディ・リズムになっています。照井さんお得意のタイミングの掴みにくいシンコペーションなどもありながら、構成としてはとってもシンプルだと思います。

照井さん本人のレビューでは、「シンプルなところが気に入っている」ということですが、確かに「冷蔵庫の中にあった有り合わせの材料でさっと作ってみました」的な雰囲気のある楽曲のように感じます。それは決して「手抜き料理だ」と貶めたいのではなく、むしろその「気楽さ」が良いなぁ、と思うところなのです。「素材=メンバー」の良さを上手く使いながら、「アイドルというファッションを身に纏っている彼女たち」というテーマに則って、無理なく作っている様子が感じ取れます。つまりは「具体的なスキル」と「抽象的な意味合い」というベクトルにおいて、照井さんがちゃんとオサカナたちを信頼しているからこそ、この「気楽さ」があるのかなと思えたのです。それが何とも素晴らしいじゃないですか。

この楽曲は「アイドルとファッション性」について言及しながら、あくまで「自由でありたい少女」を描こうとしている、その歌詞をきちんと読みながら堪能して欲しい作品になっています。

 

M4.タイムトラベルして

「宇宙コンビニ」というバンド名を聞いたことがありますか?

私はちらっと聞いたことがあり、実際に楽曲もいくつか聴いた記憶があります。現在「宇宙コンビニ」というバンドは解散してしまったようですが、「宇宙コンビニ」のキーパーソンであった中川大二朗さんが、作詞作曲を担当しています。現在は「JYOCHO」というバンドをやっているそうですが、いずれのバンドもかなり高度なMath Rockをやっているという印象です。とにかく、「ギターすげぇ!」という衝撃が先行しており、まだ中川大二朗さんの描く世界観の真髄を理解するには至っていませんが、この「タイムトラベルして」という楽曲から、彼のファンになっていきたいと考えております。

楽曲の世界観としては、明るくポップでありながら、サビでは切なさが際立っており、まさに「タイムトラベル」感のある楽曲だな、と。伸びやかで美しいバイオリンの音色と、テレキャスターを使った繊細なギターのリフ。それからトライアングルやツリーチャイム(チャリラリ~♪みたいな音のやつ)を使った煌めく音像。それらが無垢な世界を演出しています。ドラムも「Aメロ」などでは予測不能なリズムを叩きながらも、基本的には細かくはありますが、素直なフレーズを叩いているように思います(最後のサビ前のフィルインは圧巻ですが)。しかしながら、ベースがとにかく表と裏を行ったり来たりしていて気持ち悪い! 良い意味で!

この気持ち悪いベースが、楽曲の手触りをsora tob sakanaっぽくしているように思います。主に、sora tob sakana(照井さん)のルーツがMath Rockであることを思い出させることによって。「うん、よく勉強してるなぁ。そして、さすが『宇宙コンビニ』、『JYOCHO』の人!」と思っていたら、ベースを弾いているのは照井さん(兄)なんですね。まぁ、だからと言って、この楽曲は中川大二朗さんのものであることに変わりはないのですが。そして、そのことを証明し、外部に作曲依頼をした成果が最も現れているのがサビのメロディラインです。このサビは今までのオサカナにはなかったように思います。

ブックレットのインタビューにも書いてありましたが、サビの1番音が高くなるところで、ビブラートともフェイクとも言い切れない「揺れる響きの歌声」が登場します。この「揺れ」がめちゃくちゃ切ない気持ちにさせ、メンバーのスキルアップに対する感動も相まって、涙が出そうになります。ちなみに、ネタバレになってしまって申し訳ありませんが、この「揺れ」は照井さんと大二朗さんがこだわってディレクションした部分らしいです。

オサカナたちの歌声が好き!という方は、きっとこの「タイムトラベルして」という楽曲から離れられなくなるでしょう。それくらい、彼女たちの歌声の美しさが引き出された楽曲だと思います。

 

以上、前半部の終了です。

仕事が忙し過ぎて、なかなかブログを書く時間がありませんでしたが、少し余裕が出てきたタイミングで<World Fragment Tour>の発売日がやってきました。素敵なアルバムだったので、「これはレビューを書かなきゃ!」と張り切っていたのですが、久しぶりのレビューだったので疲れてしまいました。

明日以降、また時間を見つけて後半を書き進めたいと思います。

ちなみに、現在住んでいるところにはブルーレイを再生できる環境がないため、早いところ時間を見つけて、実家に帰り、特典のブルーレイも鑑賞したいと思います。

 

※2020年9月6日を以ってsora tob sakanaの解散が決まりました。

 この記事を書いているときから、本格的にオサカナのことが好きになったわけですが、本当に稀有な存在である彼女たちの作品がもう見られなくなるのかと思うのと、とても寂しいです。そんな苦しみを紛らわせるために、オサカナの紡いできた時間を自分なりに総括するために、活動をまとめるような記事を書きました。

 

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