霏々

音楽や小説など

【創作】

りとます

りとます 霞空、朝が喉元に突きつけられている。丸いグラスに透明な液体を注ぎ、その中で踊る小さな海月たちを眺めている。銀紙の衣装を脱がし、乳臭い固形物を前歯で嚙み割った。無自覚な殺意を檻に閉じ込める。 電車に乗り込み、朝陽に体の重さを照らし出…

創作物目録

2013年 eishiminato.hatenablog.com eishiminato.hatenablog.com 2014年 eishiminato.hatenablog.com eishiminato.hatenablog.com eishiminato.hatenablog.com 2015年 ー 2016年 eishiminato.hatenablog.com eishiminato.hatenablog.com eis…

幕間

南戸詠士(みなとえいし)は今日も仕事を終えて、会社の最寄りの駅まで歩いて行った。雨が降っている。濃紺の傘の生地は振り落ちる雨粒を受け止め、それがそれなりの大きさになるまで育てると、順番にひとつずつ端から落としていく。骨は一般的な傘よりもか…

Past and language

そしてまた何の抑揚も無く、最後の朝がやって来る。僕は固まった身体の節々に力を込めながらベッドの上で身体を起こし、鯨が海上に浮上した時のように低く長い溜息を吐く。カーテンの隙間からは、幾人が詩ってきた希望の朝陽が零れ落ちていた。 希望の朝陽か…

君たちが教えてくれたこと、僕が知ったこと

2杯目の缶ビールを開けて、底に泡が残っているグラスに金色の液体を注ぎ込んだ。狭い僕の部屋にはいつものようにリョウとマリとテツ君がいる。部屋にかかっている音楽に合わせてリョウは気ままに歌っていて、テツ君はチューハイを左手に、右手に持った本を…

Angry Blue

太陽が南中をわずかに過ぎたくらいの時分、荒廃した街のコンクリートの道の上を、瓦礫やその隙間から伸びる腰の丈くらいの雑草を避けるようにして、一人の女が悪戦苦闘しながら歩いていた。今はもう誰も、それこそ浮浪者さえ寄り付かなくなっている幾つもの…

Gray Scale

終電車に乗ると、私はいつも頭が痛くなる。正面には脊柱までアルコールに溶かされたせいで硬い背凭れのされるがままになっている、半目を開け、意識を失っている男。右斜め前にはブランド物の鞄に品の無いキーホルダーをぶら下げている、何故か二本ずつ傘を…

The future should be what you endure

僕が部屋の灯りを点けると、部屋の中をぼんやりとした黄色い光が満たしていく。冷たい夜風が、ほんの少し開け放っていた窓から入って来るので、僕は上着を一枚羽織ってから狭い部屋に一つだけ設けられているその両開きの小さい窓を閉めるために、そこへ歩み…

霧氷

霧氷 大学生の頃の記憶と言うとほとんど暗闇と安い酒の匂いばかりだ。朝が来ることを呪い、カーテンを隙間なくぴっちりと閉め、二日酔いを患いながら、騒々しい車の往来にイヤホンで耳を塞いだ。 もともと国道近くにアパートを借りたのが間違いだったのだ。 …

適応障害と診断されまして… 番外編

思えば大学時代の頃から僕の中には2人がいた。今から僕はその2人に対して初めて名前というものを与えてやろうと思う。 1人目の特徴はとても理性的で、僕が何か行動をするうえでも的確な判断を与えてくれるし、アドリブ的な場面でも自然と社会的な振舞をし…

Death and the flower

Death and the flower 部屋の中では淡いオレンジ色が燃えていた。ナイトランプだけが点いていたのだ。カーテンの外にはまだ夜が、静寂とともに腰を据えている。ここに引っ越して来たときから使い続けている何の変哲もない木製のローテーブルの上には、半分ほ…

霧氷 #1

霧氷 大学生の頃の記憶と言うとほとんど暗闇と安い酒の匂いばかりだ。朝が来ることを呪い、カーテンを隙間なくぴっちりと閉め、二日酔いを患いながら、騒々しい車の往来にイヤホンで耳を塞いだ。 もともと国道近くにアパートを借りたのが間違いだったのだ。 …

水流 vol.1

水流 それは月の引力に魅せられた大量のミルクだった。 カラメルシュガーの砂浜を歩き、足首でひだのような波を受け止める。波は砕け、泡を立て、そしてまた向こうへと引きずられていく。灰色の空模様。振り返るとおぞましい闇の色をした防砂林が見える。悲…

水流 vol.2

* まだ寒い日が続いていた。裕子は僕の部屋のベッドで寝転がり、慣れない酒を飲んでいる。初めから今日は帰らないつもりだったらしい。両親には一足早い卒業旅行で、友達とディズニーランドに行ってくると言ったようだった。すでに駅前のディズニーショップ…

水流 vol.3

* また日野と映画を見に行った。 僕は犬小屋程度の広さの湯船に浸かりながら、ストーリーを反芻する。 主人公は三十手前の男だった。田舎から大学進学をきっかけに上京したが、つまらない失恋が原因でほとんど引き籠り状態となってしまう。そのまま大学を中…

水流 vol.4

* 染料でそめ上げたような真っ青な海が左手には広がっている。 ゆかりは車の窓の外を眺めながら、僕の知らない歌を口ずさんでいた。先ほど、光より早いものが存在しない理由として、光が波は波でも質量を持たない媒質による波だから、と答えてからずっとこ…

水流 vol.5

* 「椎葉とはどういう関係なんだ?」 二杯目の生ビールを二口ほど済ませたところで、日野が堪え切れず僕にそう聞いてきた。いったいどこで僕とゆかりを結び付ける情報を得たのだろうと僕は不思議に思うが、日野の答は意外だった。 「椎葉が俺に相談して来た…

Black or Pink vol.1

あらかじめ断っておくべきことがいくつかあるんじゃないか、と考えていま僕はパソコンの前に座っている。どういう訳か僕はこうして一つの話を書くことに、いや、この一つの物語を書かなければならないという義務にずっと背を向けて逃げてきた。僕がその事実…

Black or Pink vol.2

また時間が空いてしまった。 カリンが僕の家にやって来たその二週間。僕は自分が五歳年上と言うことも忘れて、或いはときには思い出して、カリンと一緒になって遊んでいた。僕がゲームをしている様子を面白そうに眺めていたり、僕が見せたアニメについてネッ…

Black or Pink vol.3

ここで僕はパラグラフを変え、そしてさらにわざわざ一行間を空けるなんてことまでした。理由は僕の熱を冷ますためだ。僕はあまりにも語りすぎただろうか。何か良いことを言おうとし過ぎて、劇的な表現を用いすぎたような気がする。先のような調子で言葉を連…

凍結星

凍結星 夜の闇の中で、霧の粒子がよく目に見える。乳白色の亡霊が辺りを漂い、信号の明滅を受けて妖艶に身をくねらせる。吐き出す息の白さえも霧に飲み込まれてしまう。合成皮革の鞄はいつの間にか無数の水滴を身に纏い、蜘蛛の眼のように街灯の光を照り返す…

25歳

25歳 朝起きると、ユカはいなくなっていた。 だいたいはマリンとルリが一緒のタイミングで起きてきて、二人でユカが作る朝ご飯をテーブルに並べる。トーストやスクランブルエッグに、塩コショウで炒めたアスパラガス、それからできるだけ新鮮なレタスで作…

Symbol, implicit and closed pray vol.1

Symbol, implicit and closed pray ホテルの一室で栢森夕菜は髪にドライヤーの風を当てていた。小うるさいモーター音が部屋を満たしている。それでも窓の向こうでは強い雨風が、大地と海に降り注いでいるのがわかった。テレビも点けられていない部屋の中で、…

Symbol, implicit and closed pray vol.2

ずいぶんと久しぶりにあの灯台を訪れた夕菜だったが、時の経過で夕菜がずいぶんと変わってしまったのと対照的に、灯台はかつての姿からまるで何一つとして変わっていなかった。波しぶきが付けたシミさえ、かつてのそれと同じように夕菜には感じられた。 とこ…

Symbol, implicit and closed pray vol.3

結局のところ、夕菜は少年とともにバスに乗って、あの防砂林と雑木林の間にあるバス停へと戻って来た。夕陽はもう雲の向うへと隠れてしまい、そして雲の裏に隠れたまま水平線の下へと沈んでしまっていた。 「今晩、雨が降る。風も強い。つまり、嵐がやって来…

7days wonder

7days wonder 一日目。 私が目を覚ましたとき、あの人は既に起きて半分だけ開けたカーテンから朝の淀んだ水色の街を眺めていた。鳥の鳴き声もない、雨の音もない。空が白んでくる、という表現を聞いたことがあるが、これはどう見ても淀んだ水色だった。 あの…

春甘 vol.1

春甘 甘ったるい風が吹いている。三月の最終週、平日の午後。通りには春を告げる陽光が降り注ぎ、完全な暖色へと移行した生温い風が吹いていた。 玄関の扉を開け、霞がかった空を見上げる。きっとそこまで眩しくはないのだろうが、昼過ぎまでずっと家に引き…

春甘 vol.2

裕也は慌てて首を回し、そこに確かな人影を認めると、耳からイヤホンを抜いた。 「上原くん?」 すらりとした立ち姿。肩まで伸ばした髪は黒く、グリーンのニットに暗い灰色のガウチョパンツを合わせている。化粧のせいなのか、ぱっと見てそれが白井海織と裕…

春甘 vol.3

その日は中間テストが終わった後に、交通講話と進路指導の時間が取られていた。裕也は「徹夜で勉強して体調が悪いので」とテストが終わってからすぐに早退し、静かな校門を自転車に跨って通り過ぎた。傾きかけた陽射しは心地よく、夏に向かう風がテスト後の…

茫洋 vol.1

茫洋 裕也は黒いキャリーバッグを引きずりながら駅を出ると、まずはゆっくりと息を吸い込んだ。まだ夏の香りが残っているものの、温度それ自体は少し冷ややかだ。それから湿度が違う。東京の乾いた空気に慣れてしまうと、こっちの空気が持っているじめじめと…