霏々

音楽や小説など

Juice=Juice「好きって言ってよ」レビュー ~シンプルな中に見る「重力」~

Juice=Juiceの13th single 「好きって言ってよ」のレビューをさせていただきます。

 

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同シングルの「ポップミュージック」は既にレビューさせていただいております。よろしければご覧になってください。

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「ポップミュージック」をアップフロントらしい機智やユーモアに富んだ楽曲とするなら、今回の「好きって言ってよ」は実にハロプロ、そしてJ=Jらしい楽曲と言えると思います。それは、作詞・作曲が山崎あおいさん、編曲が鈴木俊介さんという布陣を見てもよくわかりますね。

 

◆ 作詞・作曲・編曲について

 

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2019年の楽曲大賞で見事1位に輝いた「ひとそれ」と同じタッグになるわけですから、そりゃあ良曲ができあがるってもんでしょう。

まぁ、2019年はある意味BYOOOOONDSの年とも言え、楽曲大賞に限って言えば2位「ニッポンノD・N・A!」と3位「眼鏡の男の子」、それから6位「都営大江戸線六本木駅で抱きしめて(CHICA#TETSU)」と票が分散したため、「『ひとそれ』こそまさに1位!」と大手を振るうことをあまり良しとしない人もいるかもしれませんが。しかし、そうは言っても「ひとそれ」はやはり1位を取るだけの力がある楽曲ですし、間違いなく良曲であります。また、楽曲大賞10位には同じく山崎あおいさんが作詞を手掛けた「微炭酸」がランク入りしています。

山崎あおいさんの書く感情の込めやすい歌詞は、表現力を武器にするJ=Jと非常に相性が良いんですよね(もちろん、捻った歌詞も書ける方ですが。だって自曲に「鯖鯖」や「渋谷に集うな!」という楽曲があるくらいですから)。語弊を恐れずに言うのであれば、J=Jには洒落た言葉遊びのようなものは大して必要なく、その歌詞に喜怒哀楽が満ちてさえいればそれで十分なのです。もちろん、J=Jには色々なタイプの詩を歌って欲しいという想いはありますが、今回の「好きって言ってよ」に関しては、まさに「シンプル・イズ・ザ・ベスト!」な詩と言えましょう。

そして、山崎あおいさんの作るメロディーのキャッチーさと言ったら、とてつもないものがありますね。この言葉を使うとなぜか芸人・狩野英孝さんが思い浮かぶのですが、「稀代のメロディ・メーカー」と言っても過言ではありません(狩野さんは「メロディ工場」でしたっけ? なんかその印象が強いんですよね…)。と、余計なことを書きましたが、とにかく山崎あおいさんの作るメロディの強さは以下の作曲を手掛けた楽曲を並べればわかるかと思います。

 

・ANGERME「Uraha=Lover」

・ANGERME「泣けないぜ…共感詐欺」

カントリーガールズ「夏色のパレット」

・Juice=Juice「『ひとりで生きられそう』って それってねぇ、褒めているの?」

 

近年のハロプロの楽曲の中でも、メロディのキャッチーさでは随一の楽曲たちが並びます。

そして、そんな詩・メロディを仕上げるのは鈴木俊介さんです。先述の通り、「ひとそれ」の編曲も手掛けておりますが、ハロプロと言えば鈴木俊介さんと言うくらいには、ハロプロ御用達の大音楽家であられます。

この機会ですから、私が思うハロプロ3大作曲家についてざっくりまとめてみます。

 

1.鈴木俊介

 

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モーニング娘。

・でっかい宇宙に愛がある

The 摩天楼ショー

スカッとMy Heart

・人間関係No way way

 

℃-ute

嵐を起こすんだ Exciting Fight! 

※Music+にてレコーディング映像あり!!!

 

〇ANGERME

・大器晩成

・タデ食う虫もLike it!

・46億年LOVE

 

〇Juice=Juice

・ロマンスの途中

 

こぶしファクトリー

チョット愚直に!猪突猛進

 

つばきファクトリー

・春恋歌

・表面張力~Surface Tension~

 

鈴木俊介さんの手掛けた楽曲のほんの一部ですが、ギターを活かした所謂「赤羽橋ファンク」サウンドの一角を担っているのがこの鈴木俊介さんと言えると思います。現代のベースヒーローであるOKAMOTO'Sのハマ・オカモトさんも、モー娘。の「スカッとMy Heart」を「赤羽橋ファンク・ランキング」で2位に挙げていました。アプカミのレコーディング映像では、ファンクではなく「嵐を起こすんだ~」の攻撃的なギターロックを手掛ける様子も見れますね。映像のインタビューにもありますが、ギターやドラムを中心に生音を多く入れるイメージが強いです。

 

2.平田祥一郎

 

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モーニング娘。

・しょうがない夢追い人

・大きい瞳

恋愛ハンター

・One and Only

・Are you Happy?

・LOVEペディア

 

 

Berryz工房

TODAY IS MY BIRTHDAY

恋の呪縛

・WANT!

 

℃-ute

Kiss me 愛してる

・Crazy 完全な大人

・THE FUTURE

 

〇ANGERME・スマイレージ

夢見る 15歳

ミステリーナイト!

・次々続々 ※アプカミにて編曲レコーディング映像あり!!!!

・恋はアッチャアッチャ

 

〇Juice=Juice

・私が言う前に抱きしめなきゃね

・SEXY=SEXY

・Borderline

 

こぶしファクトリー

押忍!こぶし魂

 

つばきファクトリー

・抱きしめられてみたい

 

モベキマス

ブスにならない哲学

 

と、挙げればきりないッスね。アプカミの映像を見ればわかる通り、打ち込みに強い方で1人で丸っと1曲作れてしまうような人です。モー娘。の「人間関係No way way」と「LOVEペディア」を聴き比べていただければ、鈴木俊介さんと平田祥一郎さんのキャラクターの違いはよくわかると思います。

つばきファクトリーの「抱きしめられてみたい」のレビューでは平田祥一郎さんの編曲について、少し詳しく話しているのでよろしければ読んでいただければ嬉しいです。

 

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3.大久保薫

モーニング娘。

One・Two・Three

・冷たい風と片想い

・邪魔しないで Here We Go!

・A gonna

・KOKORO&KARADA

 

なんちゃって恋愛

・Only you

・What is LOVE?

・ジェラシー ジェラシー

・あの日に戻りたい

・シルバーの腕時計

 

Berryz工房

青春バスガイド

 

℃-ute

・夢幻クライマックス

 

〇ANGERME・スマイレージ

・好きよ、純情反抗期

・「良い奴」

・赤いイヤホン

 

〇Juice=Juice

イジワルしないで 抱きしめてよ

・Fiesta!Fiesta!

 

つばきファクトリー

・独り占め

 

近年のつんく♂さんのフェティシズム溢れる楽曲(モー娘。で前半に挙げた楽曲群)ではほぼ必ずと言って良いほど、大久保薫さんが編曲家としてセレクトされています。しかし、こちらも挙げればきりないくらいに数多くの楽曲を手掛けております。上記で紹介しているのは、大久保薫さんらしい「洒落た」楽曲になります。J=Jでは「如雨露」なども手掛けており、「そんな曲も!」ということも多いと思いますので、ぜひ調べてみてください。

 

さて、かなり話が逸れてしまいましたが、そんなハロプロ3大作曲家(個人的)の中でも、ファンクを手掛けさせたら随一の鈴木俊介さんが編曲を手掛ける今回の「好きって言ってよ」になります。これからきちんと楽曲のレビューを進めていきますので、もうしばしお付き合いください。

 

◆ 基本リズム構成

結論から言えば、シャッフルビート(後で説明します)と8ビートの掛け合わせです。とりあえず話を進めるためにシャッフルビートを説明すると、理論的には「3連符の中抜き」、感覚的には「タッカタッカタッカタッカ」というリズムになりますが、いわゆる「跳ねる」ようなリズムのため、ファンクを得意とする鈴木俊介さんが得意とするゾーンだと私は思います。

しかし、音楽を作る上の順序で言えば「作曲⇒編曲」となるわけですし、リズムがシャッフルビートというよりは、そもそも歌メロがシャッフルビートのため、普通に考えれば山崎あおいさんがシャッフルビートの楽曲を作ったことになりますね。

ここからは私の勝手な妄想ですが、前回の「ひとそれ」で山崎あおいさんと鈴木俊介さんのタッグが成功したため、おそらく「もう一度このタッグで!」という話になったのでしょう。そこで事務的に考えれば「プロデューサーがシャッフルでいこか!」と決めたか、あるいは物語的に考えれば「あおいさん)また鈴木さんとだ! 普段どんな楽曲作ってるんだろう? …うわ、めっちゃファンクじゃん! じゃあ、跳ねる感じのシャッフルとか好きかな?」みたいなことがあったのか、その辺は定かではありませんが、結果的に鈴木俊介さんの編曲力を最大限に活かすであろうシャッフルビートのメロディが生まれました。個人的には、この跳ねるシャッフルビートは山崎あおいさんのイメージにはあまりなかったのですが、うまく山崎あおいさんらしいキャッチーな感じにまとめられていると思います。

さて、それではしっかり「シャッフルビート×8ビート」の説明をしますね。

 

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シャッフルビート×8ビート

 

バスドラムとスネアは、「ドン・パッ・ドン・パッ」という8ビートの骨格になるリズムを作っています。そこに、ハイハットの「ツックツックツックツック」というシャッフルビートが乗っているような構成だと考えていただければ良いと思います。

「あんまり音楽的なことはちょっと…」という方であれば、まずは青色のバスドラムとスネアの8リズムを感じながら本楽曲を楽しんでいただければ良いでしょう。

普段から音楽に親しんでいる方は当然言われるまでもなく、黄色のハイハットのシャッフルビートも同時に感じながら楽しんでいただけることと思います。

そのうえで言いますが、先述の通り、「歌メロはシャッフルビート」なのです。なので、実際に上のリズムにAメロの歌詞を当て込んでみると…

 

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Aメロ

という感じでシャッフルビートの中にうまく収まっていますね。ですから、とりあえず楽曲の通りに歌っていれば自然とシャッフルビートを刻んでいることになるわけですね。そして、「シャッフル=跳ねる」みたいなイメージを持っていれば、自然とそれに合わせた歌い方にもなってくるでしょう。

サビのキラーフレーズである「無償の愛はとうに品切れ」も同じようにバッチリシャッフルビートに当て込まれていますので、基本的には全編通してシャッフルビートを感じながら歌うのが正解だと思います。しかしながら、やはり8ビートも強調されているので、8ビートの部分は特に強めにリズムを感じることで、より深くこの楽曲のビートに乗ることができるようになると思います。

と、そんなこの楽曲を構成する基本ビートを感じながら、次に楽曲全体の構成に移っていきましょう。なお、Bメロでこの基本リズム構成が崩れるのがこの曲のポイントとなりますので、それだけは今のうちから頭に入れておいていただければ幸いです。

 

◆ 楽曲の構成

まずは歌詞ベースで楽曲の構成と小節数についていつもの如く見ていきます。

 

intro(8.8.2)

A1-1(8)
ああ、昨日は手を繋いだのに
今日はなぜかちょっとだけ冷たい?
そんな駆け引き 夢中になれない

A1-2(8)
明日の予告もアテにはならない
その場しのぎで変わってゆく時代
生きるだけで スリルは足りてる

B1(8.8.2)
胸を焦がす恋もきっと良いけれど
私が欲しいのは もう 変わらないもの ひとつだけ

C1(8.8)
好きって言ったら「ありがとう」じゃなく
好きって言ってよ 同じ温度で
無償の愛はとうに品切れ 生憎、そんな余裕はないの

D1(8.8)
切なくって 苦しくって だけど後に引けなくて
から回って また泣いて
切ないって 苦しいって 悔しくって言えなくて
気にしてないフリした

inter1=intro(8.8)

E-A(8)
パッと醒める夢のような
甘い日々が欲しいわけじゃない

F(8)
くたくただって ずっと離せない
ブランケットみたいに温めて

B2(8.8.2)
刺激的な恋もちょっと良いけれど
心を満たすのは そう 想い合える 安らぎだけ

C2(8.8.4)
好きって言ったら「ありがとう」じゃなく
好きって言ってよ 同じ温度で
無償の愛はとうに品切れ 生憎、そんな余裕はないの

inter2(8.4)

B3(8.8.2)
胸を焦がす恋もきっと良いけれど
私が欲しいのは もう 変わらないもの ひとつだけ

C3(8.8)
好きって言ったら負けにしないでよ
好きって言わせてよ 駆け引き無しで
無償の愛はとうに品切れ 生憎、そんな余裕はないの

D3(8.8)
切なくって 苦しくって だけど後に引けなくて
から回ってまた泣いて
切ないって 苦しいって 悔しくって言えなくて
気にしてないフリした

outro=intro(8.8)

 

例の如く、「A1-2」は「1番の2回目のAメロ」ということであり、「B3(8.8.2)」というのは、「3番のBメロが、8+8+2小節で構成されている」ということを示します。特に今回の楽曲では、「intro=inter1=outro」というような書き方がされていますが、これは「イントロと、1つ目の間奏と、アウトロが同一のメロディ」であることを示しています。

まず注目するポイントとしては、サビが2段構成となっていることですね。頭の弱い私は「ラーメン+カレーライス」セットとか普通に昼に食べられるような人間なのですが、言うなればそういったお得感とワクワク感があります。いや、さすがに最低の比喩ですね(笑)

最近私がレビューした中では、多少意味合いは違うものの、ANGERMEの「全然起き上がれないSUNDAY」もサビが2段構えでした。

 

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「~SUNDAY」では1段目(Cメロ)よりも2段目(Dメロ)のサビの方がビートが落ち着く、という不可思議な構造となっていましたが、今回の「好きって言ってよ」では1段目のパワーを2段目が上回る、単純にとってもワクワクする展開になっています。

特に「から回って また泣いて」の辺りの旋律の不安定な音階が、狂気的な感情の揺れ動きを表現しており、この楽曲の聴き所となっています。なので、おそらくこの楽曲を聴いて最初に「わ、最高じゃん」と思うのは、まずサビ1のCメロの後に、また新しいメロを持つサビ2のDメロが現れて、この不安定な旋律を聴いた瞬間でしょう。このような「サビの2段構成」+「不安定な高音の旋律」というのは、王道中の王道の手法ではあるわけですが、しかしながら、その王道に耐えうるだけの「めためた強い」メロディーを作れるのが山崎あおいさんという人なのです。

 

しかしながら、「はいはい、王道、王道」と簡単に捨て置くことができないのは、2番のE-AメロとFメロです。「E-A」なんて訳の分からない書き方をしましたが、よくよく聴いてみると、2番は1番のAメロとは異なるメロディを用いていることがわかるはずです。ただし、最初の8小節(さゆきのパート)は「新しいEメロ4小節+Aメロと同じメロの4小節」で構成されているので、少しわかりにくいと思いますが、このような「E-A」なんて書き方をしました。そして、その後の8小節(佳林ちゃんパート)は完全に1番にはない「新しいFメロ」が登場してきます。

あまりにも「キャッチー」を狙いに行き過ぎると、楽曲は単調になって、それ故に面白味を欠き、繰り返しの視聴に耐えられなくなってしまいます。特にこの「好きって言ってよ」は上述の通り、「サビの2段構成」という最強にキャッチーな手法を使っています。そして、山崎あおいさんの超キャッチーなメロディに、鈴木俊介さんのノリの良い「シャッフルビート+8ビート」が加わり、もうこれ以上ないくらいにキャッチーなわけです。

では、そんな「ラーメン+カレーライス」セット並みに超キャッチーな楽曲に対して、どうやってその旨みを減じさせず、複雑さ・深みをもたらすか。ヒントは「味変」です。ベースとなる味はそのまま良いんです。ただ、2番をただの1番の繰り返しにせず、「E-Aメロ」や「Fメロ」といった文脈的には同一線上にありながらも、少し変わった味へと変化させるのです。いわば、「ラーメンにはニンニクとブラックペッパーを」、「カレーライスには福神漬けとラッキョウを」という感じですね。

こうして、私たちは飽きることなく、このカロリーの高いキャッチー地獄的な楽曲を繰り返し視聴できるようになったわけです。

このような1番と2番で微妙にメロを変える手法を用いている楽曲を、他のアイドルですが紹介させていただきます。

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sora tob sakanaというアイドルの<World Fragment Tour>から「M2: knock! knock!」という曲になります。つんく♂さんばりに入り組んだ楽曲の構造をしていますが(Bメロが最後にはサビになるんです)、私はそのような構造よりも、1番と2番で別のメロを使っている手法にグッときました。しかも、この楽曲も「好きって言ってよ」同様、完全に奇想天外な異なるメロを持って来るのではなく、文脈的には地続きに見えるメロを持ってきているんですよね。ともすれば、1番と異なっていることに気付かないような。

しかし、それは優れた映画の優れたワンシーンのように(例えば「となりのトトロ」でメイがおばあちゃんに連れられてサツキの学校に来てしまうシーンのように)、印象的な質感を確かに私たちの手に残していくと思うのです。

 

そして、そのような凝ったテクニックとして、よりわかりやすく用いられているのが、Bメロの変調ですね。

イントロ⇒Aメロと、シャッフルビートを軸にしたマイナー調の格好良いメロディが続きます。それが一旦Bメロでガッと展開させられて、サビのCメロ・Dメロでまたノリの良いマイナー調のメロへと戻っていきます。さて、それではBメロはA・C・Dメロとどう違うのでしょうか。また、私のしがないExcel技術に頼ってみたいと思います。

 

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Bメロ(8ビート)

 

正確にはハイハットなどはBメロでもきちんとシャッフルビートを刻んでいるのですが、歌メロがシャッフルビートではなく、8ビートの方に乗っかってくるため、跳ねた印象が消え失せ、伸びやかな感じに変貌します。当然J=Jのメンバーはそのようなディレクションを受けて、レコーディングをしているわけですが、歌い方もAメロやサビとは大きくことなっていることが感じられるでしょう。これは単に歌い方を変えたというのではなく、「どのビートに乗るのか」が変わっているからです。

そしてある人は「あれ、テンポ変わった?」と思ったりもするのではないのでしょうか。これが面白いところですが、バスドラムとスネアで構成される8ビートだけを意識しているとテンポが変わっていないことはよくわかると思います。

では、なぜテンポが変わったように感じられるのか。

それは、再度Aメロのリズム構成を書き出してみるとわかります。

 

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Aメロでは1拍あたり、単純に書き出せば「2音」登場してきますが、Bメロでは1拍あたり「1音」です(子音でカウントすれば、ということですが)。すなわち、音の密度が2倍違うわけですね。

 

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ロックではよく「ハーフテンポ」というテクニックが使われますが、上記の「シュガーサーフ」という楽曲では、間奏(1分26秒)の前後でテンポが半分に落ちたような感じになっています。厳密にはテンポは変わっていないもののビートの密度が半分になっているため、楽曲の緩急をつけて、重たく魅せるためにこのようなテクニックが用いられています。結構色んな曲で使われています。

が、この「好きって言ってよ」はその亜種と言えます。いや、ハーフテンポとも言い難い。

先ほど私は「密度が2倍違う」と言いましたが、それはあくまで「子音の数をカウントすれば」であって、実際には「シャッフルビート(3連符を基本)」と「8ビート」なので、3倍違うわけです。しかも、そのビートの変容が、「歌メロ」だけでもたらされているのが面白いです。つまり、バスドラ・スネア・ハイハットというリズムの基本構成要素は同じビートを刻み続けながらも、歌メロやその他のビートの基本構成要素ではない楽器によって、ビートが変わったような感覚を作り上げているのですから、かなりハイレベルなテクニックと言えるかもしれません。

そして、そのようなビートの変容だけでなく、短調なメロから長調へと変わるので、「A(短:暗&跳)→B(長:明&伸)→C(短:暗&跳)」という不思議な波が生まれます。この不可思議な楽曲の展開が、楽曲の印象を一辺倒にさせず、立体感を作り上げる重要な役割を担っていると言えます。

 

と、こんな感じで、キャッチーでありながらも、様々な工夫がなされており、この楽曲を「ただのキャッチーな曲にはさせないぞ!」という意思が伝わってきますね。しかしながら、そうは言っても、やはりこの楽曲はとことん「歌もの」の「キャッチー」な楽曲であることには変わりありません。

ただ、前回の「ひとそれ」で使われていた2番の「小節数カット」は使われていません。この記事の1番上に「ひとそれ」レビューのリンクを貼りましたが、「ひとそれ」では楽曲を間延びさせないために、つまり、キャッチーなメロディを効果的に際立たせるために、AメロやBメロの長さを2番では1番の半分にする手法が用いられていました。しかし、今回の「好きって言ってよ」では、その2番煎じになるのを避けるかのように、「メロディ自体を変える」という手法や、「AメロとBメロをガラッと変える」という手法が用いられることとなりました。

漫画「DEATH NOTE」にて、「L」こと竜崎は「同じ手は二度使いたくないんですけどね」と言っていましたが、やはり「同じ手を二度使う」というのは無粋ですからね。こうやって色々な手を使って見せるのが、お洒落というもんでしょう。毎日同じスーツで、同じようなネクタイを締め、会社に出勤している私が言えたものではありませんが、「本物のお洒落さんは毎日違う服を着る」ということですね。

 

◆ 歌詞の解釈

今回の歌詞は山崎あおいさんの「ひねた」ところはほとんど見られませんね。「ごまかさないで、ちゃんと好きって言ってよ!」って歌詞です。どストレートな歌詞です。ですから、解釈なんてするまでもない、と考えていましたが、よくよく歌詞を読んでみるとちょっと不思議なところがあります。

いえ、テーマはやっぱり「好きって言ってよ」というところで変わらず、主人公の女の子が求めているのは「好き」って言ってもらうことなんです。ただ、「これこれこういう状況なので、『好き』って言って欲しいのです」という部分がわかりにくい気がします。

1番のAメロでは、「昨日はあんなに優しかったのに、なんで今日はそんなに冷たいの?」、「明日のことなんてわかったもんじゃないわ」という状況から、主人公の女の子は「駆け引きとかそういうのはもういいから」、「普通に生活してるだけでスリルはもう充分足りてるから」と恒常的な安らかな愛を求めているのが伝わってきます。

そして、1番のBメロでは「胸を焦がす恋もきっと良いけれど」と、「恒常的な安らかな愛」の対義語的な言葉が登場してきます。ただ、気をつけなければいけないのは、ここで対偶証明法(高校数学を思い出してください!)を使ってはいけないということです。

「恒常的で安らかな愛」の対義語として、「なんか今日冷たくない?」という現状が書かれていますが、これは単に男の「怠慢」です。しかしながら、「胸を焦がす恋」もまた「恒常的で安らかな愛」とは対義語の関係にありますが、とは言え、「怠慢=胸を焦がす恋」とはならないですよね。このことを端的に表すと、

 

「男の怠慢」⇔「恒常的で安らかな愛」⇔「胸を焦がす恋」

 (現状) ⇔    (理想)   ⇔  (??)

 

という構造になるわけですが、では「胸を焦がす恋」というのは何にあたるんでしょうか?

はい。要するに「胸を焦がす恋」=「さらなる理想」=「憧れることすら馬鹿らしくなるくらいの手の届かない理想」というわけですね。

「いや、本当は胸を焦がすような恋をしたいよ? でもさ、ほらそんな理想ばっかりも言ってらんないじゃん。せめてさ、日々を優しく慎ましく幸せに生きていけるだけの、変わらない愛くらい欲しいってもんよ」

的な羨望と諦めが綯い交ぜになった感情を主人公の女の子は抱えているんでしょう。

そう思って、サビの「好きって言ったら~」からの歌詞を読んでみると、主人公の女の子が「恋や愛に溺れたい」という結構強いめの欲望を持っていることが伝わってきます。だって、「から回って、また泣いて」という状況にありながらも、「切ないとか、苦しいとか、悔しいから言えない」んですから。

ほとんど描写の無い歌詞ではありますが、きちんと感情の動きというか立ち位置があったうえでの、「好きって言ってよ」という構造になっているのは、「さすが山崎あおいさん」と言ったところでしょうか。

 

・くたくただってずっと離せないブランケットみたいに温めて

・好きって言ってよ 同じ温度で

・無償の愛はとうに品切れ

 

の辺りの文章表現は個人的に好きですね。私が男として恋愛ソングを書くとしても、「毛羽立った使い古しの毛布くらいには温めよう」とか「体温を分け合う」とか「なけなしの愛をそれでもタダで配って歩く」みたいな表現はぜひとも使ってみたいですね(笑)。冗談じゃなく。

 

◆ みんな可愛すぎ(=・ω・=)~♥

さて最後にパフォーマンススキルに極振りしたと思ったら、なぜかビジュアルまで極まってしまったJ=Jのメンバーをひたすら賞賛しながら、MVを楽しんでいきたいと思います。凝り固まった頭をほぐしましょう。

 

幾何学、光、角度

 「ポップミュージック」では4つも場面があり、それぞれに衣装もセットも異なり、それらが組み合わされて1曲のMVとなっていましたが、この「好きって言ってよ」はカットが変わっても、衣装やセットは変わりません。幾何学的な模様に配置された棒状のライトが、カラフルに光り輝くという至ってシンプルなセット。あとはその中でメンバーがダンスして、それを様々な角度カット割りで撮影していく、というこれまたかなりシンプルな構成です。ソロのリップシーンも、上述の歌詞解釈に則って、あまりに曝け出すような表情作りはせず、どちらかと言えば、堪えているような、クールを気取っているような感じです。唯一、2人組のアップシーンは強いフックになっており、映し出される歌詞も彩りを添えています。

 

・イヤリング、衣装、ヘアスタイル

 細い線上の金属で作られたイヤリングが、幾何学模様のセットとよく合っており、シンプルな上品さをより際立たせています。「幾何学、光、角度」と上述した通り、近未来的なニュアンスを感じさせるMVに対して、モノクロをベースに形とオレンジの差し色で見せる衣装も素晴らしいです。髪色も暗色に揃えられており、けばけばしくないヘアスタイルも世界観によく似合っています。

 

・ソロショット

 いや、みんな可愛すぎ、綺麗すぎるでしょ。アップもソロダンスも、素晴らしい完成度。具体的な言葉が出てこないほどです(これは単に私の文章力不足)。表情のニュアンスも、ダンスの見せ方も、やり過ぎず、やらなさ過ぎず、品やすっきりとした妖艶さに悩殺されます。

 

・2人組みアップショット

 1番のサビなどで見られますが、たった2人なのに目が足りない!!!

 これ、きっと皆さんなら共感してくださいますよね???

 

ナチュラルなダンス

 あまり意味を持たせず、またハードワークもさせず、無理なく自然な振付が良いですね。

>追記

 アプカミを見たところ、かえでぃー(加賀楓)が「山城先生の振付は難しい…」と言っていました。

 

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 たしかに、ダンスレッスンの映像を見ていると、かなり細部までこだわっており、振りのタイミング、角度等かなりのこだわりが見えます。私のような門外漢からしたら、激しくガツガツ踊っていないし、奇抜な振りもなく、ただ流れるように踊っているように見えてしまっていましたが、そこにはとても繊細な表現が隠されていたのですね。そういったところまで気が付けずに「無理なく自然な振付」なんてことを言ってしまいました。

 しかしながら、私が受けた印象も完全に的外れというわけではなさそうです。私が感じたダンスのナチュラルさはつまるところ「大人の余裕」みたいな感じであり、複雑ではあるけれど、決して奇抜でもハードワークでもない、流れるような振付にあるのだと思います。元気ではつらつとした若い女の子はその大胆な挙動に目を惹かれますが、対して成熟した女性は、ほんのちょっとした微妙な目線や首の角度の作り方で男を魅了します。そういった部分がこのダンスの肝なのでしょう。

 そして、それらは最終的には、この記事の副題になっている「重力」という言葉に置き換えられ、自然な力で私に「この記事をどう書くべきか」ということを教えてくれたと今更ながらに気付くのです。

 

 

なんて言うか、もう全体を通して、キャッチーなメロディとJ=Jの歌声、そして単純にハイレベルなビジュアル。それら「単純に素材の良さを最大限に引き出してます」的な演出全てが最高です。余計なものは削ぎ落して、「良いもの」を濃縮したようなこのMVは、見れば見るほど、「Juice=Juice好きで良かった!」と思えてきますね。

あまりにも自然過ぎてもしかしたら「惹き」は強くないのかもしれませんが、いやいや、これは確実に重力がありますよ。

※恒例のサッカー喩えになりますが、クリスティアーノ・ロナウドマンチェスターユナイテッドでのような派手なドリブルを捨て、レアルマドリードでワンタッチゴーラーとして開花したように、シンプルなプレーで最大限の脅威を与える…そんなスマートな美しさがあります。川崎フロンターレ中村憲剛選手は彼をして「守備しないで前線に残ったままでしたが、彼には重力がありましたからね。彼が前線に残っていることで、相手ディフェンダーは上がることができなかったんですよ。彼はそこにいるだけで、相手の戦力を削いでいたんです」というような評価をしていました(引用ではなく、私なりに噛み砕いています)。味方からのパスをワンタッチでゴールに結びつける力のあるクリスティアーノ・ロナウド。シンプルなプレーの中には、いくつもの熟練した技術があり、卓越した筋肉、身体の向き、状況判断、目線のフェイント…そういったものを総動員しているからこそ、彼は「重力」を得て、常に脅威であり続けられたのでしょう。

と、かなり話が脱線しましたが、要するにJ=Jはもはやそういった次元のアイドルになっていると言えますね。

 

あ゛ぁ゛…さい…っこう…♪

 

◆ 宮本佳林のラストシングル

その名に恥じない出来だと思います。これがアイドル・宮本佳林の到達点となりました。ビジュアルも極まっていますが、パフォーマンスも極まっています。もちろん佳林ちゃんはもっと情感たっぷりな曲において、その溢れんばかりの情感を乗せることができます。また、もっともっとアイドルアイドルした楽曲で、そのクリスタルボイスで繊細なニュアンスを施すこともできます。元気な曲では無邪気な天使になり、「ポップミュージック」のようなユーモア溢れる楽曲では「ぷにゅぷにゅ~」とはっちゃけてしまいます。

ですが、それらを全て押さえ込み、ただただこの楽曲に身を捧げる…それこそが佳林ちゃんのアイドル=偶像としての到達点だと思います。

そして、エースからの脱却。

もう佳林ちゃんはエースである必要がなくなり、1人のただのアイドルです。力む必要もなく、ただ佳林ちゃんは佳林ちゃんであれば良い。そうしてくれたのは、J=Jのメンバーです。

ここでこの話をするのは不適切かもしれませんが、そういう鞘師里保も見てみたかったですね。まぁ、彼女は彼女のやり方で自分の置かれている環境を変えて、そこを目指したわけですが、ただの1人のアイドルになった佳林ちゃんとリホリホを同じステージで見てみたかったです。

佳林ちゃんに話を戻しますが、エースから脱却したからといって、佳林ちゃんの何かが損なわれたわけではないと私は思っています。むしろ、得られたものの方が多いのではないでしょうか。そして、それは卒業する佳林ちゃんへメンバーから送られたプレゼントみたいなもので、「佳林ちゃんは佳林ちゃんであれば良い」というメッセージである…なんて臭いことをついつい考えてしまいます。

 

この楽曲からJ=Jのファンになる人がいて、その人はもしかしたら「佳林ちゃん? あぁ、あの黒髪のショートボブの子ね。そう言えば、卒業しちゃうんでしょ? せっかくいい曲をもらったのに勿体ないね」みたいなことを言うかもしれません。彼にとっては、佳林ちゃんは1/8に過ぎず、いやもし他に推しがいればその割合はもっと減ることでしょう。そして、佳林ちゃんが卒業した後も、佳林ちゃんの空白をそこまで感じないかもしれません。なぜなら、佳林ちゃんがいなくなっても、J=Jには魅力的なメンバーがたくさんいて、1人抜けたくらいではパフォーマンスのレベルは落ちようがないからです。

しかし、そんな彼がJ=Jにどっぷりと浸かり、過去に遡っていくにつれ、佳林ちゃんの偉大さを知っていきます。そして、またこの「好きって言ってよ」に戻って来て、おそらくこう思うはずです。

宮本佳林は、アイドルとして、Juice=Juiceとして、やり切ったんだな、と。

 

最後に…

ラストにかけて自分でも何を書いているのかわからなくなってしまいましたが、佳林ちゃんは私のアイドルヲタクとしての人生をガラッと変えてくれた存在です。佳林ちゃんを好きになって、Juice=Juiceを好きになって、ハロプロを好きになって、アイドルを好きになって、音楽を好きになりました。人生まではなかなかまだ好きになることができませんが、それでもこうして素敵な楽曲を聴きこみながら文章を書いている時間は、この世界の中にあっても良いかなと思えます。

だって、1秒でも早く書き終えてブログを投稿し、YouTubeのコメント欄にリンクを貼り付けた方が、アクセス数を稼ぐには良いとわかっていながらも、「書き終えたくないなぁ」なんて思ってしまっているんですから。

何か書き残してしまったことはないでしょうか。

いや、きっとたくさんあるはずです。でも、もう書けません。

書けないとわかっているのに、何かを探してしまいます。

「いくら書いてもやめられないんだ」と映画「ネバーランド」でピーターが言っていましたが、結構リアルにそんな感じです。

とは言うものの、いつまでもこんなことをやっているわけにもいきません。

最後にまた同映画「ネバーランド」よりセリフを引用してみます。

 

「ずっといてくれると思ってた」

「私もだ。でも、いるんだよ、この中に。君がこれから書いていくであろう、すべてのページに。だからずっと一緒だ。いつでも」

 

これは私自身に向けての言葉であると同時に、Juice=Juice、佳林ちゃん、ファンの方々、すべての人たちに向けての言葉だと今なら感じることができます。

では、寝ます。