sora tob sakana <World Fragment Tour>のレビュー、後半戦に入りたいと思います。
当初は記事が3つに分かれるとは予想していませんでしたが、よくよく考えてみれば私がそんなに要領良くものを書けるはずもありませんね。3分割構成はなるべくしてなったように思いますが、自分の体力・時間的な問題も含めると、もっと要領良く書けるようにならなければな、とは感じています。
さて、中盤戦からは少し時間が空いてしまいました。休日に色々と用事が入ってしまい、ブログを書く暇がなかった故ですが、何とか時間を見つけて<World Fragment Tour>付属のBDも鑑賞することができました。
「Lightpool」、「鋭角な日常」、「silver」、「広告の街」、「My notes」などお気に入りの曲がバンドセットライブで観られたのは非常に良かったですね。音源では緻密な音の積み重ねで楽曲が構成されていますが、生演奏のライブだとそういった緻密さよりもパッションが先に飛んでくるので、かなり聴きごたえが違いました。ポストロックって実はエモいんですよね。音源は凄い整然としていて知性的に聴こえますが、ライブになるとその複雑さ故に演者は皆必死になりますし、私の大好きなポストロックバンドのtoe然り、カウントを中心に各々が各々の演奏に没入していく感じがたまりません。
MVも最高でした。特に「Lightpool」のMVはYouTubeだとどうしても映像が潰れてしまっていましたが、BDだと細部まで美しく鑑賞できました。自分のPCはBDが再生できない環境なので、今回はわざわざ実家に戻ってBD鑑賞をしたわけですが、そのかいがありました。そして、やっぱり一度この美しさを体感してしまうと、もうやめられませんね。いま、このブログを書きながら、PCのソフトをアップグレードする手続きを進めています。
さて、いつもの如く、前置きが長くなってしまいましたが、楽曲のレビューに移り値と思います。
M9.シューティングスター・ランデブー
作曲者が蓮尾理之さんという方で、作詞はプロデューサーの照井さんというクレジットの段階から面白い楽曲になっています。蓮尾さんは照井さんとsiraphというバンドを組んでおり、そこではキーボードを担当しているとのことです。
siraphの「Quiet Squall」という楽曲です。めちゃくちゃ洒落てますよね。正直この楽曲からは「シューティングスター・ランデブー」に通じる要素はほとんど感じられません。強いて言うなら、ギターの音が完全に照井さんのそれであるということと、キーボードから感じるお洒落なコード感ですね。本当に上品ここに極まれり、という感じです。「シューティングスター・ランデブー」も曲想はかなりポップですが、楽曲を通じてどこか掴みどころのない浮遊感が漂っているのは、使っているコードが複雑なことと関係しているように思います。コード進行も決して単純ではないように思いますが、音階のことは私はあまり得意じゃないので、これくらいにしておきます。
イントロこそ四つ打ちで始まりますが、基本的には打ち込みの8ビート(ド、ツ、タ、ツ)で構成された楽曲で、ダンサブルな楽曲になってます。ところどころにキメがふんだんに盛り込まれているので、キメの箇所が把握できてくるにしたがって聴くのが楽しくなって来るタイプの曲です。特にサビ前の「お・し・え・て!」とかは一緒に口ずさみたくなってしまうポイントですね。
間奏のあえて裏をいくようなリズムのポイントも、照井さんほどはやり過ぎず、適度でノリやすいですし、そこから繋がる「シューティングスター(シューティングスター、シューティングスター)♪」とリフレインしてくるところもキャッチ―です(ブックレットにもこだわったポイントであると書かれていました)。落ちサビなんかもしっかりとあったりして、アルバムを通して最もJ-POP、アイドルソングとしての様式美を追及している楽曲だと感じました。つまり、最もオサカナっぽくない楽曲のように私には思えます。テクニカルなコード進行や、細かいキメなどはオサカナらしい部分ではありますが、音自体も打ち込みがベースになっていたり、という新鮮さがありますね。
しかしながら、そのようにオサカナっぽくない楽曲のはずなのに、<World Fragment Tour>というアルバムタイトルにはマッチしているんですよね。この楽曲に見る世界の断片は、「とってもポップな魔法の国」という感じです。「シューティングスター・ランデブー」という曲名がまずポップです。照井さんが書き綴った歌詞からもそんなポップな世界観が伝わってきます。
君の七色のペンの隠し場所 教えて!
や、
星が見えなくても刻まれた軌道が道標さ!
や、
シューティングスター 君を連れ出すよ 心踊るステージへ
など本当にポップでキラキラとした世界観がわかります。
そこにオサカナメンバーの純白な声が加わるわけですが、実はこの楽曲の肝となっているのは、歌唱パートの「ハモり」です。この「ハモり」が純白なだけじゃない、色とりどりのカラフルな世界を作り上げています。その「ハモり」も通り一遍のものではなく、ソロパートからキメのところだけハモったり、ステイ気味のハモりだったのがキメだけ外れるようなハモり方をしたり、メンバーの組合せも自由自在という感じで、全体を通して歌唱パートの割り振りが面白いです。
こうして色々と書き出してみると、この楽曲が非常に作り込まれているものだということがわかりました。ただし、オサカナの作り込み方と言えば、これまで「いかに複雑にするか」というベクトルだったのが、本楽曲では「いかにポップでシンプルに聴こえるものを作るか」というベクトルであるように感じます。ことバランス感覚というポイントに絞って言うのであれば、アルバム随一でしょう。押しと引きのバランスが素晴らしいので、一見ポップでシンプルに聴こえますが、実は一番玄人好みする楽曲ではないかな、と。
M10.World Fragment
アルバムタイトルにもなっている楽曲。当然、アルバムの構想それ自体と合致した世界観を持つ楽曲になっています。
ただ、私は最初この曲が苦手だったんですよね。いや、いくらポストロックやマスロックが好きだと言っても、この楽曲はリズムが複雑すぎて……というか、キメが「多い」且つ「複雑」なんでノリにくいんですよ。しかも、そんなに複雑で攻めた曲にもかかわらず、全体的にメジャー調で明るい曲想。そして、サビは優しく、歌っている内容は普遍的でとても真っ直ぐ。そのちぐはぐな感じにどうも馴染めない自分がいました。
しかしながら、ブックレットを読んでみると、
最も作ることに苦戦した曲
とありました。これを読んで、「なるほど」と思いましたね。確かに、この楽曲からは尋常じゃない「時間」を感じます。「これでもか」というくらい複雑なキメのリズムには、試行錯誤の跡が見え隠れしています。歌詞からは「旅・出会い・希望」の持つ美しさや素晴らしさを歌いたいという強い信念を感じます。
これは私の持論ですが、「作曲に費やした時間と同じだけの時間をかけてもその作品の本質は理解できない」と考えています。そういう意味では、この楽曲制作にかけられた時間を考えれば、私が何度かちょろっと聴いただけでは理解できなくて当たり前なわけです。なので、ブックレットで照井さんの言葉を読んでからは、とにかく少しでも楽曲が理解できるまで繰り返し、繰り返し、この「World Fragment」という楽曲を聴きました。そして、ようやく今、この楽曲の美しさの片鱗に触れることができたように思います。
「オサカナらしさ」をメンバーという側面からアプローチしていった今回のアルバムですが、この「World Fragment」という楽曲は「照井さんらしさ=Math Rock的なアプローチ」についてもより掘り下げられているように思います。まるで、照井さんが伸び行くメンバーの個性に負けないようにしているかのような雰囲気を感じます。オサカナと照井さんのお互いの進化がぶつかり合って、新しい世界へと繋がっていく。そんな楽曲に対する想いを表しているのが、歌詞の最後の部分です。
空を飛ぶ魚はきっと 私を連れていく 遠くへ
思いがけない場所へ
本当はもっと詳しく書きたかったのですが、まだ私自身がこの楽曲の良さを深く理解できていないため、これくらいにしておこうと思います。ただ、この楽曲には質量があり、聴き込む価値があることはわかります。「E=mc^2」。質量はエネルギー。私はまだこの楽曲の質量から、この楽曲の持つエネルギーを引き出せていないのです。私の目の前にあるのはウラン鉱石。そこから核反応エネルギーを取り出すためには、私自身がもっと成長し、技術を高める必要があるでしょう。
そして、むしろそのような私の心境はまさにこの楽曲で歌われている世界観と恐ろしいほど合致しているのかもしれません。ブックレット内の照井さんの楽曲レビューにあった一言。
しかし結局は自分が変わらなければ、新しい歌は歌えない
M11.WALK
めちゃくちゃ素直なJ-ROCK。それを合唱曲テイストに仕上げるのは、オサカナメンバーの真っ直ぐな歌声。たしかにほんの少し、ドラムが複雑なパターンを叩いたり、という部分はありますが、それも自然な範囲に収まるもので、楽曲全体を通して「力み」のようなものは感じません。
ぶっちゃけ、売れる曲ではないと思います。でも、売れなくても、こういう楽曲が持っているパワーって計り知れないんですよね。
しっかりお洒落してキメてる君も好きだけど、部屋着の君の方が好きだな。
と、まぁ、そんな感じですかね。
まるで「今までの『世界の断片旅行』で見てきた奇跡的で魔法みたいな美しい景色が、すべては夢の中の出来事だった」とでも思わせるような実に地に足の着いた優しく現実味のある楽曲。でも不思議と「あぁ、夢だったのか」というような落胆や寂しさみたいなものはなくて、夢は夢でも、「目標」的な意味合いでの「夢」であるように感じます。「となりのトトロ」の「夢だけど、夢じゃなかった」というセリフって言えばわかりますかね。M1~10までの楽曲はどれも夢なんかではなく、オサカナたちが作り上げた素敵な世界。でも、それは魔法の力を借りて作ったもので、本当の彼女たちは普通の女の子で現実に生きているわけです。アスファルトを踏みしめ、雨の日は傘をさして歩く。でも、そんな彼女たちは決して現実に打ちのめされているわけではなく、またあの魔法で作った世界に向かって足を踏み出していく。
とても臭いことを書いてしまったように思いますが、ブックレットの楽曲紹介でも照井さんはオサカナのメンバーたちを励ますようなコメントを書いています。ここではあえて引用しませんが、今まで精一杯背伸びをして駆け抜けるように美しい世界を描いてきた彼女たち(おそらくそこには照井さん本人も含まれているはず)に向けて、今一度ゆっくりと歩いて、世界を見つめ直そうというような内容のコメントでした。
それはつまるところ、今回のアルバムのコンセプトである「メンバーを軸にした表現の模索」を体現するということです。「世界観ありき」ではなく、「メンバーありき」とすることでより等身大なオサカナを見出す。それは外部作曲家を招く試みにも現れていますし、「M7.嘘」のようにメンバーの肉声をサンプリングしたような楽曲づくり、「M8.ありふれた群青」のように普通の恋を全編ソロパートで歌いつなぐ楽曲構成などにも現れています。「M10.World Fragment」では、逆に照井さんが自分と徹底的に向き合っています。
「新しい世界を見出す」という「World Fragment Tour=世界の断片旅行」ではあったわけですが、世界旅行を終えてみれば、またそこには私たちの現実があります。この目で見てきた世界の美しさは思い出となり、その思い出の熱量を胸にまた日常に足を踏み出していく。世界を一周して見出せるものは得てして、「自分の現在地」なのかもしれません。世界を見てきたからこそ、改めて「自分の現在地」というものを大切にできるのかも……そんなありきたりの一般論と、この楽曲、そしてアルバムはとても合致しているように思います。
◇アルバムレビューを終えて
実はアルバム全編をレビューするというのは、ほとんど初めての経験でした。バズマザーズの<ムスカイボリタンテス>というアルバムも全曲レビュー(一部意図的にレビュー対象外)しましたが、あれはどちらかと言えば、アルバム収録曲を1曲ずつしっかりとレビューしたというだけであって、「アルバムをレビューした」という実感はないです。
この<World Fragment Tour>というアルバムは、どちらかと言えばコンセプトアルバムだったように思います。すべては「World Fragment Tour=世界の断片旅行」というアルバムタイトルに帰着されます。「世界観」から「メンバー」への軸の転換。それと、「世界の断片旅行」という言葉が重なり合って、本アルバムのコンセプトを作り上げています。
M1.whale song = はじまりの予感
M2.knock! knock! = 新しい世界へのトビラをノックする
M3.FASHION = 変幻自在のワタシ、自由な世界へ飛び出す
M4.タイムトラベルして = キラキラ輝く無垢な世界を駆け抜ける
M5.燃えない呪文 = 柔らかい微睡の優しい世界への憧憬
M6.嘘つき達に暇はない = 楽しくてドキドキする世界をどうぞ
M7.暇 = 世界旅行? あぁ、いいですね、羨ましいです。ふわぁ…
M8.ありふれた群青 = 普通の女の子の普通の恋愛
M9.シューティングスター・ランデブー = ポップな魔法の国へようこそ
M10.World Fragment = 濃密な万華鏡、 sora tob sakana の世界
M11.WALK = おかえり。また一緒に世界を歩いていこう。
全曲に私なりの一言イメージを付与するのであれば、こんな感じですかね。
いやぁ、本当に素敵なアルバムに出会えました。これからもファンでい続けようと思います。
最後に…
やっと終わりました。
sora tob sakana <World Fragment Tour>のアルバムレビュー。
個人的にはなかなか精力を出し尽くして、書ききったと思いますが、どうでしょうか。まぁ、足りない部分も大いにあるとは思いますが、これが現時点での私の精一杯…
心残りがあるとすれば、この記事=後編の内容がやや薄くなってしまったことですね。音楽的な考察がほとんど及ばなかったことが原因だとは思いますが、こればっかりは私の能力不足と言わざるを得ません。アルバムの意味などについては色々と考えることができましたが、個人的な見解ばかりになり、客観性が低くなってしまったこともちょっと考える必要がありそうです。
そう言えば、YouTubeを漁っていたら、2019.3.26にオサカナがRHYMSTER宇多丸さんが司会を務めるラジオ番組「アフター6(通称、アトロク)」に出演した際の音声データを見つけました。ダンスがなく、またバンド編成もGt., Ba., Key., Drというシンプルな編成ということもあり、非常に聴きやすい素晴らしいライブ音源でした。アルバム付属のライブBDも素晴らしかったですが、「演奏、歌の精度としてどうなの?」と感じた方はぜひ、こちらも見てみてください。ほんと素晴らしいですから。
かつて、私の大好きなアイドルグループJuice=Juiceも出演していた番組です。ラジオで生演奏が聴けるって良いですよね。毎回、音響も素晴らしくて、「また出てほしい!」って思ってしまいます。
全然関係ない話をして申し訳ありませんでしたが、昨日 3/30 に鞘師里保さんが久しぶりのステージを成功させましたね。鞘師さんが出て来たときと歌ったときのあの歓声、すごかったです。神格化されたアイドルの復活というのは、ああいった空気感を生み出すものなんですね。
NUMBER GIRLも再結成しますし、2019年は素敵な年になりそうです。
そして、sora tob sakanaもいつかは活動停止を迎えることでしょう。でも、きっと未来の人たちは「こんなカッコイイ音楽してたアイドルがいたんだ!」と驚くに違いありません。そのとき、ちらっとでも私のブログが読まれてくれたらなぁ、なんて思ったりもしています。
※2020年9月6日を以ってsora tob sakanaの解散が決まりました。
まさかこの記事の締めの言葉の後にこんな記事のリンクを貼ることになるなんて思ってもみませんでしたが、オサカナ解散の寂しさを紛らわせるために、オサカナの紡いできた時間を自分なりに総括するために、活動をまとめるような記事を書きました。
よろしければこちらも読んでいただければと思います。