霏々

音楽や小説など

Juice=Juice「ポップミュージック」レビュー ~失われゆくポップ。現代の共通言語はタピオカミルクティか。~

Juice=Juiceの13th single「ポップミュージック」のレビューをさせていただきます。

 

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品の良い悪ふざけ。隠しきれない生真面目さ。それがJuice=Juice。

 

ということで、また奇怪な曲をリリースすることになりましたね。「KEEP ON 上昇志向」や「地団太ダンス」に続く、おふざけ曲と言っても過言ではないでしょう。サムネのタコちゃん(工藤由愛ちゃん)のガンギマリしたような眼光の鋭さがすべてを物語っています。

今回は楽曲の解説もしますが、どちらかと言えば可愛さを論じたい気分ですね。とは言え、楽曲としても素晴らしいので、またいつもの如くしばし長ったらしい文章にお付き合いいただければ幸いです。

 

◆ 編曲の炭竃智弘さんについて

KANさんの新曲をさっそくカバーしたような形になっていますが、KANさんの原曲よりもかなり豪華でパーティな感じに炭竃智弘さんがアレンジしてくれていますね。炭竃さんはこれまでもハロプロに携わってきた作曲・編曲家の方で、私の記憶に強く残っているのは、つばきファクトリーの「今夜だけ浮かれたかった」、「三回目のデート神話」などですね。ANGERMEの「マナーモード」の編曲も手掛けられているそうですが、個人的にはハロプロ御用達の編曲家である平田祥一郎さんとかなりベクトルが似ているなと感じています(アーティストを「誰々と似ている」と評するのは失礼にあたりますが…)。

類似点としては、「ベースがとにかく動きまくる!」というところがまず挙げられますが、平田祥一郎さんの方がより「重く」「厚い」ベースの使い方をします。炭竃さんはより「軽やか」で「点」のノリを重視しているような気がしますね。まぁ、個人的な実感でしかありませんが。あとは平田祥一郎さんの方が自己完結的(楽曲のほとんどを自分の音だけで組み立ている感じ)であり、炭竃さんはもう少し生楽器の音・演奏を取り入れているような雰囲気です。

したがって、炭竃さんが編曲を手掛けている楽曲は、きっとハロヲタに受け入れやすいものになっているのではないでしょうか。私自身こうやって記事をしたためるまでは、良くも悪くも炭竃さんのことをあまり意識していませんでした。が、まずは比較しやすいところで、炭竃さん編曲の楽曲と平田さん編曲の楽曲を順番に聴き比べてみると、類似点と相違点が色々と見つかって面白いと思います。

 

www.youtube.com 炭竃さん編曲

 

www.youtube.com 平田さん編曲

 

に、似てる…

まぁ、2曲ともあまりお二人の特徴であるベースの蠢きはあまり激しくありませんが。

 

www.youtube.com 炭竃さん編曲

 

www.youtube.com 平田さん編曲

 

まぁ、楽曲自体が割と違うわけですが、やはり炭竃さんの方が軽やかで歯切れがよく疾走感があり、平田さんの方が重厚かつ滑らかで聴かせる感じだと思いますね。また、炭竃さんは生音を多く取り入れ、平田さんは打ち込み多めという印象もありますね。

 

◆ 有名曲のオマージュ ~ポップってなんだっけ?~

Youtubeのコメント欄に「gyokutube」さんという方のコメントがあり、そこにほとんど書かれていますが、さまざまな有名曲がオマージュとして取り入れられております。勝手に引用してしまって大変申し訳ございません。

楽曲の構成とともに書き表してみます。

 

 

intro(4.8)
< 4: M「Pop Muzik」, 8: The Village People「YMCA」>

C0(8.8)
Pop Pop Pop Pop Music
初めて聴いたのに妙に懐かしくて
Pop Pop Pop Pop Music
陽気なメロディがなんか切なくて
Pop Pop Pop Pop Music
どうあれぐるぐるアタマに廻っているよ
Pop Pop Pop それは Pop Pop Pop ってゆうか
最初に聞いとくけど ポップってどんな意味?

inter1(8)
< 8: VAN McCOY「the hustle」>

A1-1(8)
アナログレコードだけの昔
ぼくらの日々はただカラカラで
ラジカセ馬鹿デカイ音で鳴らし
廊下でステップ踏んでいた

A1-2(8)
< 8: Gloria Gaynor「I Love You Baby」>
ネットもメールも使いこなす
ぼくらは逆にもっとシャバダバ
スマホ失くしたただそれだけで
絶望に立ち尽くしている

B1(8)
ちゅるちゅる ぷにゅぷにゅ
君のタピオカミルクティ
挙ってかき混ぜて じきに忘れるよ
でもいつかまた会いたいね

C1(8.8)
Pop Pop Pop Pop Music
初めて聴いたのに変に懐かしくて
Pop Pop Pop Pop Music
キャッチィなメロディがどっか切なくて
Top Top Top Top10入り
興味ないフリしてちょっと気になんのは確か
Top Top Top 君は Top Top Top ってゆうか
ぶっちゃけ聞くけどトップってどんなフィーリング?

inter2(8)
< 8: VAN McCOY「the hustle」>

A2(8)
< 8: Gloria Gaynor「I Love You Baby」>
サドゥンリィな親戚の集まりで
母の若いフォト見ていたら
ここんとこお気に入りのあの娘と
ほぼほぼそっくりさんでした

B2(8.2)
ハッとしてグッときて
ぼくは単なるかき氷
削って 飾られて 
あっというまに溶けていってなくなるよ
淡いピンク涙の水たまり

C2(8.8)
Pop Pop Pop Pop Music
最初会った時から妙に懐かしくて
Pop Pop Pop Pop Music
笑顔を見るたび切なくなって
恋 恋 恋 恋って言うんです
そうだよ今夜もアタマが踠いているよ
恋 恋 恋 もういいよ 恋 恋 恋
誰かどうにかしてちょうだい この胸の痛み

inter3(8.4.1)
< 8: CHIC「Le Freak」>

C3-1(8.8)
Pop Pop Pop Pop Music
初めて聴いたのに妙に懐かしくて
Pop Pop Pop Pop Music
陽気なメロディがなんか切なくて
Pop Pop Pop Pop Music
どうあれ自然にカラダは動いているよ
Po Po Po 鳩 Po Po Po ってゆうか
もう1回聞くけど ポップってどんな意味?

C3-2(8.8)
Pop Pop Pop Pop Music
初めてのはずなのに
Pop Pop Pop Pop Music
ちゅるちゅるぷにゅタピオカミルクティ
Pop Pop Pop Pop Music
どうあれ自然にカラダが動いているよ
Po Po Po 鳩 Po Po Po ってゆうか
最後に聞くけど この曲どんなフィーリング?

outro(3)

 

※毎度の説明になりますが、「intro=イントロ」、「inter=間奏」、「outro=アウトロ」で、「A1-2(8)=1番の2回目のAメロは8小節分」というような読み取り方になります。

長くなりましたが、青太字のところがオマージュとなっている部分です。KANさんの原曲にはこういったオマージュが無いので、炭竃さんの機転(というか、むしろプロデューサーの趣味)によって、こういった楽しい楽曲となっていると思われます。

オマージュと言えば「こぶしファクトリー」というイメージが私にはありますが、残念なことに「こぶし」も解散してしまいますからね…プロデューサーの「癖(へき)」を満たす新たな犠牲後継者としてJ=Jに白羽の矢が立ったということでしょうか。BEYOOOOONDSの「アツイ」のMVも有名曲のMVから多く引用がありましたが、私はあまり古い楽曲を聴くタイプではないので、こうやって自分の好きなアイドルを通して、より広く音楽を知ることができるのは嬉しいですね。

とは言うものの、車のCMとかのおかげ?でほとんどすべての楽曲を自然と知っていました。どこで聴いたのかなんて全く覚えていないのに知っているなんて、何だか不思議な感じです。古き良き時代です。昨今は本当に種々雑多なエンターテインメントが溢れ返り、ネットによって個々人が自分の趣味に合うものを見つけられるようになりました。こんな時代では、この楽曲で引用されているような全人類的な楽曲はなかなか発生し得ないと思われるため、こういう引用による「遊び」が効力を発揮しづらくなってしまうことでしょう。そのことを寂しく思ってしまうのは、私が古い時代の人間だからなのか…「個性」や「自由」の代償に、「共通認識」や「一体感」というものを喪失していく…あらゆる物事は等価交換だな、と久しぶりに鋼の錬金術師を見た私はついついそんなことを考えてしまいます。やれやれ、話が逸れてしまいましたね。

いや、逸れてなんかいません。

本楽曲の歌詞に「ポップってどんな意味?」とありますが、Googleで調べれば一発、「Popular(大衆的)の短縮形=ポップス」ということがわかります。ほかにも「時流に乗っている」というのが「ポップ」の邦訳みたいですね。

したがって、「ポップってどんな意味?」という問の答の一例となるのが、上述の引用されている楽曲たちと言えましょう。当然、「いま現在、時流に乗っている」というわけではありませんが、かつてその楽曲たちは「時流に乗っていました」し、今なお全人類に認識されている非常に「大衆的な=Popular」なものと言えます。しかし、そんな「ポップ」がこの時代では失われつつあるわけです。なぜなら、この世界には数多の情報が張り巡らされており、それを個々人が自由に取捨選択できる時代になったのですから。「共通の土壌」なんてものはもはや、過去の遺物です。そういう意味では、「誰もが知っている楽曲」として上述の「ポップス」も「クラシック」もたいして変わりはありません。歴史に疎い私が「近代」と「現代」の違いを理解していないように、そのうち「ポップス」と「クラシック」の差異がうまく掴めない世代が出て来ることでしょう。

そんな現状を踏まえると、「ポップってどんな意味?」という言葉がより一層深く感じられますね。KANさんは「ポップが失われている時代だからこそ、改めてポップとは何か?」ということを問いただしたかったのかもしれません。そして、編曲家の炭竃さんはあえて古い有名曲をオマージュして、そのクエスチョンに対するアンサーとしたのだと私は勝手に解釈しています。

 

◆ 楽曲の構成

ここ最近、小節数に注目して、楽曲の分析をすることにハマっていますが、小節数の観点から言えば、本楽曲はいたってシンプルな構成となっていることがわかります。Aメロ⇒Bメロ⇒Cメロ(サビ)という流れの繰り返しとなっており、そのサイクルの間を適宜間奏が埋めています。

興味深いところを黒太字で書いているので、ご確認ください。

1つ目に工夫を感じた点としては、1番ではAメロが2回繰り返され、8小節×2=16小節分あるのに対して、2番ではAメロの繰り返しはなく半分の8小節で終わっています。これは、楽曲を間延びさせないための効果的な手法です。毎度紹介していますが、J=Jの「ひとそれ」ではより分かりやすく使われていましたね。

 

eishiminato.hatenablog.com

 

また、そのほかの工夫している点としては、B2の小節数が8+2=10小節となっているところです。この2小節の追加があることで、一辺倒にならずに楽曲の立体感が生まれています。ほんの僅かな遊び心ですが、楽曲の質を高めるうえでは非常に重要な遊び心と言えますね。

アウトロが3小節となっているのも、全体的に不思議な楽曲の締めくくりとしてはおあつらえ向きの遊び心と言えましょう。

あとは歌詞に「ハッとしてグッときて」とありますが、これはトシちゃんこと田原俊彦さんの「ハッとして!Good」とい楽曲名から引用しています。曲名は知っていましたが(ゴッドタンのマジ歌企画で劇ピンさんがオマージュしていたため)、ちゃんと聴いたことがなかったので、この機会にきちんと聴いてみました。これがなかなか構成も面白く、またコード進行も比較的単純ながら7thを上手く使って、いわゆる歌謡曲的なセピアで哀しげな感じが演出されている素敵な曲でした。ギター初心者でもコード進行くらいだったら簡単に追えるので、ぜひ弾いてみてください。そして、楽曲の構成を考えてみてください。なかなか面白いと思いますよ。

と、なぜか「ハッとして!Good」のレビューをしてしまいましたが、「ポップミュージック」は色々な仕掛けのある曲ですので、私が気づかないものもまだまだたくさん隠れているかもしれません。何度もリピートして聴いていただければと思います。

あ、KANさんの原曲バージョンもぜひ!

 

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◆ MVの見所 °˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

可愛い顔文字なんかも使っちゃって、ここからは個人的にMVの素敵な、可愛いポイントをひとつずつ並べていきたいと思います。

 

・前奏前の公園

 カラフルな遊具が並ぶ公園の中に、これまたカラフルで子供っぽい衣装を着た3人。左から松永里愛ちゃん、工藤由愛ちゃん、稲場愛香ちゃんの順です。頭には鳩の着ぐるみ帽子をかぶり、3人そろってソッポを向いています。まずこの絵のポップかつシュールな感じにやられましたね。タイトル、グループ名のロゴも合わさって、「この曲をどう聴けば良いか」が一発で伝わってきます。漫画NARUTOデイダラは「ポップは死んだ!オイラのはスーパーフラットだ!うん」と言っていましたが、ポップはまだ死んでいなかったわけですね。

 新人2人(松永里愛=やふぞう、工藤由愛=タコちゃん)は何とかシュールさを出そうと気張って表情を殺しているように見えますが、さすがはまなかん(=稲場愛香)。まったく力まずにこの無表情を作れているあたりは、元カントリー・ガールズだけあります(カントリーに関係なく、個人の資質や経験も十分にありますが)。

 いつもは大人びてカッコのよろしいJ=Jのメンバーがふざけているのが素敵です。

 

 カラフル、ポップと言えば私の中では、No Busesの「With or Without It」。

 

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 こちらはサイケ感もかなり強いですが、それでも「シュールって実はポップの文脈上にあるものなのでは?」と思わせるような部分には共通の土壌を感じます。

 

・鳩の鳴き声からお尻フリフリダンス

 言わずもがな「ポップ⇒ポッ⇒鳩」というダジャレなわけですが、歌詞にもこれ見よがしに「鳩」という言葉が出現してきます。それを受けて、J=J ver.にはそのまんま鳩の鳴き声が使用されています。

 そして、ホットパンツを履く新人2人のお尻には、2つのボンボンがついていますね。これは明らかに鳩の鼻瘤を意識しているものでしょう。気になって鳩の鼻瘤について簡単に調べてみましたが、実は鳩の体調が悪くなるとこの鼻瘤の色も変わるそうです。面白いですね。まぁ、そんな雑学はこのMVを鑑賞するにあたって何の意味もないのですが。

 

・イントロの武藤敬司ポーズ

 パーーパッパー♪というところのポーズがなんかモノマネ芸人の神無月さんがやる武藤敬司に見えるのは私だけで一時停

 

・「ハッ」の振り向き

 出だしの公園の3人が「ハッ」という掛け声とともに振り返ります。一時停止してみると、3人の表情に個性が現れていて面白いです。やふぞうはやる気がなさそうに見えて、実は一番精悍な顔立ちなので、試合直前の格闘家のような趣さえ感じます。タコちゃんはやっぱり何でも全力。「眼力(がんりき)」という言葉がうってつけの表情ですが、眉間に皺が寄っているのもポイントが高いです。最後にまなかんは、真面目な顔していても、口がちょっぴりアヒル口になっていて、さすがのあざとさと言えるでしょう。新人2人よりも背がちょっこしちっこいのも可愛らしいです。

 三者三様のキメ顔が素晴らしく、スクショして待ち受けにしようかと悩んでしまうくらいの絵力がありますね。

 そして何といっても振り返るタイミングが素晴らしい。まなかんは「ハッ」に合わせてかなりジャストのタイミングですが、新人2人のちょっこし遅れたタイム感がどこか不器用さが感じられて良いです。綺麗に揃うことで得られるシュールさもあるかもしれませんが、ちょっとばらけてざっくりとしている方が可愛らしさが出ていて良いですね。

 

・「Pop Pop Pop Pop Music」の口ずさみ

 全員が楽しそうに「ポッポッポッ」と口ずさみながら踊っているのが楽しそうで良いですよね。この「口ずさみ」のおかげで、見る方も「あ、歌っていいんだ。ノッっていいんだ」となりますし、結構重要なところだと思います。そして、何よりもみんな可愛い。

 

・出だしの佳林ちゃんパート

「初めて聴いたのに妙に懐かしくて」の佳林ちゃんの声の作り方がたまらないですね。儚さも力強さも捨て、子供っぽい喉での発声が絶妙です。そして、そんなおふざけボイスなのに、抑揚がきちんと効いていて、「なつかしくて~」の「か」のニュアンスなんか最高じゃないですか。

 

・グループダンスをしながらの、ソロショット

 ハロプロなどで良く見るソロのリップショットも沢山盛り込まれていますが、今回のMVで特に私が「良いな」と思ったのは、全員でグループダンスしている最中にソロショットとなるところです。位置づけとしてはほぼほぼソロショットなのですが、周りで他のメンバーが踊ってもいるので、より「全員で楽しんでる感」が出て良いと思いました。場合によっては、ソロパートを歌っている人しか画角に収まっていないショットもありますが、ちらちらっと隣のメンバーの腕が映ったりしています。しかしながら、その「ちらちらっと」でもほかのメンバーが映り込むことで、絵の印象が全然変わって来るんですよね。不思議なものですが。

 

・衣装、セット、世界観について

 衣装とセットについては、大まかに分けて4パターンあります。

 ①公園の鳩、②レトロ・柄、③レトロ・銀、④当時流行・コスプレ

 服飾に関する知識が乏しいので、適切な言葉がわかりませんが、ざっとこんな感じで書き表せば、皆さんにも理解してもらえるのではないでしょうか。 

 

①公園の鳩 … シュール&コメディ

 これは見たまんまですが、MVの中ではサブリミナル効果的なタイミングで出現してきますね。「シュール」がコンセプトです。基本的には「ポッポッポッ」のタイミングで挿入されますが、それ以外にもC0とA1の間の間奏であったり、B1の「じきに忘れるよ」の辺り、C1とA2の間の間奏など、ところどころで可愛い3羽の鳩たちと出会うことができます。

 

②レトロ・柄 … 元気&楽しさ

 ストライプ、チェックなどがふんだんに使用された衣装を着て、皆で踊っています。チェッカーズを意識しているような感じだと思いますが、ただ古いものを流用しているのではなく、レトロな柄を取り入れて再構築しているので、古臭くなくて素敵です。上述の「全員ダンスだけど、ソロショット的」というのは、この衣装の時のものが多いですね。メンバーの表情の作り方もかなり弾けた感じで、カメラワークも相まってとにかく楽しそうな空気感が伝わってきます。

 

③レトロ・銀 … アイドル&ラグジュアリー

 対して、全身銀色の衣装は最も現代にも通用するものですがライティングや映像の取り方も相まって、どこかレトロなキャバレーのような雰囲気も感じます。あえて映像を光でぼやかすことで、解像度が低い感じを演出してよりレトロ感がもたらされています。「②レトロ・柄」の方がかなり解像度が高く、メンバーの楽しそうな表情をはっきりと映し出しています。また、この「③レトロ・銀」では、いつもの単独でのソロショットが多く、まさに「アイドル的」な撮り方がなされていますね。

 

④当時流行・コスプレ … 世代&演技

 これはもう全員素晴らしいです。聖子ちゃんカットの佳林ちゃん。竹の子族のさゆき、あーりー。JKるるちゃん。ヤンキーまなかん。ソバージュタコちゃん。リーゼントやふぞう(この語感いいな…)。かなともだけはイマイチコンセプトがわかりませんでしたが、それでもとにかくお綺麗です。全員がその役になり切っているのが非常に良いです。

 佳林ちゃんの80年代的表情の作り方はさすがの一言ですし、まなかんの睨み顔なんて超キュートです。個人的にはさゆきの腕を横にスライドさせるダンスが、なぜか心にグッと来るんですが、これは一体どういう原理に則った感情なんでしょう。

 またこのコスプレシーンでは、それぞれのモチーフに適した背景が映し出されており、この背景のぼやけた感じが何とも言えない哀愁を感じさせるとともに、よりそのコスプレの世界観をわかりやすく伝えるうえでの重要な役割を担っています。

 

と、こんな感じでそれぞれの衣装に応じて、それぞれの世界観と役割が与えられており、それらがごちゃ混ぜになることで「ポップ」という概念が作り出されています。とにかく楽しそうなのが良いですよね。大好きなアイドルの色んな側面が見られる素敵なMVです。そして、これは何も批判をしたいわけではなく、むしろ賞賛をするためなのですが、やはり新人2人の表現力はまだまだ先輩たちには及んでいないこともはっきりとわかりますね。アイドル歴の長い先輩たちは皆この4つの世界線を上手く演じ分ける力があります。新人2人も頑張って演じ分けようとしているのが伝わってくるので、これからの成長が本当に楽しみです。でも、現時点でも2人の個性がじわじわと伝わって来るので、充分魅力的だと思います。達人たちの中に、こういうフレッシュな人がいるというこのバランスがたまりませんね。

 

長くなりましたが、A1辺りからまたお気に入りのシーンを上げていきたいと思います。

 

・A1直前の鳩3人衆のゆっくりとした振り返り

 皆それぞれ良い味を出していますが、特にタコちゃんのちょっと猫背な感じと劇画タッチの表情がめちゃくちゃ面白いです。なんか強そうです。

 

・B1「君のタピオカミルクティ」のあーりーの首振り

 歌声、表情、首を振る仕草。すべてが可愛くありながら、正気の沙汰とは思えない歌詞によって、異次元の面白味を感じさせてくれます。

 

・C1「Pop Pop Pop」のJKるるちゃん

 くしゃっと笑いながら楽しそうに手振りをするJKるるちゃん。あぁ、癒される…浄化されてゆく…このまま成仏してしまいたい…という感じですね。

 

・B2「削って飾られて」のまなかん・タコちゃんのじゃれ合い

 お姉さんまなかんの母性が…や、なんか字にするとキモイですが、このまなかんのちっちゃい子に「よしよし」する感じって、エロいとまではいかなくても、胃の辺りをぞわぞわさせられませんか? 子供っぽいタコちゃんも素敵です。

 

・C2「もういいよ」ってやふぞうか!

 そのままですが、このパートってやふぞうなんですね。なんかあまりにも自然で、全然意識しておらず、見逃すところでした。達人の先輩たちに紛れても違和感がないのですから、これはもう発声が新人離れしているということですね。

 

・inter3のぷにゅぷにゅ佳林さま

 はい。これは見たまんまです。最近のインスタ動画の佳林ちゃんが好きすぎるのですが、このネジの外れ具合が愛おしいですよね。そして、もちかりん。

 

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もちかりん

あぁ、可愛い。愛しい。

・半音上がるC3

 最後のサビで半音上げの展開は間違いなく盛り上がる手法であり、まさにポップの王道。モー娘。の「自由な国だから」では盛り上げと同時にカオスな展開を生み出すために使われていたりもしましたが、こちらは単純な王道ポップスとしての活用になりますね。

 

eishiminato.hatenablog.com

 

王道な半音上げ出ないパターンとして、こちらの記事も参考にしていただければ幸いです。

 

・かなとも「どうあれ自然にカラダはうごいているよ」

 かなとも史上、地声(ミックスボイス?)での高音最高到達点ではないでしょうか。かなともの声の色気は、その「芯の太さ」にあると思うのですが、「こんな芯の細い声も出せたんだ」とびっくりしました。普段からかなともはかなり安定した発声をしているので、「これは初めて聴く声だ!」と結構びっくりしました。そして、「初めて聴くけれど、これは間違いなくかなともの声だ」とわかってしまうのも、かなともの強い個性を感じられて嬉しいです。

 

・さゆきの「ちゅるちゅるぷにゅタピオカミルクティ」

 これもまた「言わずもがな」な箇所ですね。抜群の歌唱力。そして、MVでの激しい身振り手振り。

 これはさゆきの良いところだと思うのですが、「ほら、面白いことやってるでしょ?」というそういう押しつけがましさを感じさせないのが凄いです。こういう「いかにも」なことをやる場合、どうしても「ほら、面白いことやってるでしょ?」みたいな雰囲気が出てしまうものですが、さゆきの場合、本人がちゃんと「これ」を楽しんでいるからこそ、そういう厭味ったらしい部分が出ないのだと私は思っています。

 

・まなかん&るるのラスト「鳩!」

 これも上のさゆきと同じく、「言わずもがな」の箇所であり、同時に厭味ったらしくならないで本人たちが楽しんでいるのが感じられる素敵な箇所でもありますね。

 

・outro ラスト「Pop」by やふぞう

 ただの「ポッ」ではなく、きちんと「ポッ」と発音しているのが唇の動きから見て取れますね。こういった実直さが私は好きだったりします。レコーディングの時とかに注意されたのかなぁ、なんてことを考えてしまう。元リーダーの宮崎由加さんも、「Vivid Midnight」のレコーディングで「ミッドナイト」を「ミッナーイ」と発音して注意されていましたし(いや、このシーンめちゃくちゃ好きでした笑)。

 

さて、これにて全てのレビューが終わりました。

色々と予定が立て込んでいる中でやや書くのが遅くなってしまいましたが、列車の移動時間などもフル活用しながら少しずつ書き進めました。その間、ずっとこの「ポップミュージック」を鬼リピートしていたわけですが、不思議と飽きないんですよね。MVも何回見ても飽きませんし。

一言で言えば「良曲」ということになるわけですが、シンプルそうに聴こえているものの、これまで書いてきた通り、いくつもの仕掛けがあるから飽きないのかもしれません。また、KANさんの「ポップ」に対する解釈と、それに編曲で答える炭竃さんのアイディアも面白く、MVもメンバーの魅力を引き出していて素晴らしいです。

J=Jのことが好きであれば好きであるだけ、この楽曲のことも好きになれるんじゃないかと思います。

私が言うのもなんですが、ぜひこのブログを読んでくださった方も繰り返し繰り返し聴いて、幸せな気分になっていただければと思います。

 

最後に…

今日は吹きガラスの体験に列車で行ったのですが、このレビューを書くのに夢中で降りなければならない駅で電車を降り損ねました。そのせいで一緒に行ってくれた相手には迷惑をかけてしまったわけですが、小心者の私がそこまで狼狽えなかったのはこの楽曲のおかげかな?と思うわけです。

なんかこの曲を聴いていると、「どんな時代(時)も楽しんでいかなきゃ」と思えるんですよね。月並みな感想ですが(いや、現代的に言えば、小学生並みの感想とすべきでしょうかね)。

 

あ、全然話は変わりますが、アイドル楽曲で「鳩」と聞くと、私はPOP'N KISSというアイドルの「鳩、低空飛行」を思い出します。楽曲も詩も良いので、ぜひ探して聴いてみてください。ハロプロハロヲタがお世話になっている南波一海さんが、凛として時雨ピエール中野さんにアイドルを薦めるという不思議なインタビューで取り上げられていた楽曲だったと記憶しています。