水流
水流 それは月の引力に魅せられた大量のミルクだった。 カラメルシュガーの砂浜を歩き、足首でひだのような波を受け止める。波は砕け、泡を立て、そしてまた向こうへと引きずられていく。灰色の空模様。振り返るとおぞましい闇の色をした防砂林が見える。悲…
* まだ寒い日が続いていた。裕子は僕の部屋のベッドで寝転がり、慣れない酒を飲んでいる。初めから今日は帰らないつもりだったらしい。両親には一足早い卒業旅行で、友達とディズニーランドに行ってくると言ったようだった。すでに駅前のディズニーショップ…
* また日野と映画を見に行った。 僕は犬小屋程度の広さの湯船に浸かりながら、ストーリーを反芻する。 主人公は三十手前の男だった。田舎から大学進学をきっかけに上京したが、つまらない失恋が原因でほとんど引き籠り状態となってしまう。そのまま大学を中…
* 染料でそめ上げたような真っ青な海が左手には広がっている。 ゆかりは車の窓の外を眺めながら、僕の知らない歌を口ずさんでいた。先ほど、光より早いものが存在しない理由として、光が波は波でも質量を持たない媒質による波だから、と答えてからずっとこ…
* 「椎葉とはどういう関係なんだ?」 二杯目の生ビールを二口ほど済ませたところで、日野が堪え切れず僕にそう聞いてきた。いったいどこで僕とゆかりを結び付ける情報を得たのだろうと僕は不思議に思うが、日野の答は意外だった。 「椎葉が俺に相談して来た…