霏々

音楽や小説など

音と光の球体 - 凛として時雨 失神蠍 TOUR2025 Tornado in Budokan

 

 これまで色々なライブに行ってきましたが、人生最高のライブだったことをまずは言っておかなくてはなりません。音、光、すべてが想像以上で、自分がこの「凛として時雨」というバンドにかけて来た想いも相まって、感情が揺り動かされました。

 武道館という場所自体はそれなりの回数を訪れてきましたが、凛として時雨のライブとしては3回目。2012年の「DECEMBER'S CHILDREN」という企画、それから続く2013年の初ワンマン武道館「Dear Perfect」。どれも思い出深いものではありました。しかし、その頃は私も大学生で、初めて自分の好きなバンドのライブに行くということを経験し出したばかり。それがどれくらい凄いことなのか。どれくらい気持ちをかければいいのかわからず。年月とともに次第に記憶は掠れていき、「am3:45」のミラーボールを使った美しい光の海と、ラストの狂気的なギターソロに切り刻まれる「Missing ling」だけが僅かに思い出されるばかりです。ああ、「Missing ling」のギターソロで会場が真っ白な光に溺れた記憶もまた呼び起こされました。

 あの時から12年が経過しましたね。凛として時雨というバンドは常に変わらない距離感で、私の1番近いところに居てくれました。当時の最新アルバム「i'mperfect」から数えると、「es or s」・「#5」・「last aurorally」・「Lost God of SASORI」と新しい楽曲たちが公開されてきました。12年という月日で考えると、「意外と少ないかな」と思ってしまいます。しかし、その間にもTK from 凛として時雨や、その他の楽曲提供なども含めると、常に多彩な音でもって私に素敵な刺激を与え続けてくれたようにも思います。

 

 開場時間ぴったりくらいに到着し、とりあえず物販に向かってみましたが、ほとんどがソールドアウト。ステッカーや時雨煮が残って良そうだったので、それらを購入し、アリーナ席へと向かいました。私の席はBブロック(前方から2ブロック目)のステージから向かって中央寄りのやや下手側。ステージから近からず、遠からずという素敵な距離感で、かつ下手側のスピーカーの度正面ということもあり、音にも期待できそうです。

 会場入りして驚いたのはステージ裏に暗幕がないということ。武道館ではだいたいステージ裏の空席を隠すために暗幕が引かれていたりするものですが、それがない。剥き出しの空席には照明も置かれているようでした。そして、ステージ上には、蠍の脚を象徴するかのような6本の突起が。これもまた舞台演出上、何かを担うのでしょう。全体的に剥き出し感・骨組み感というものがあり、荒々しく無骨なステージになりそうな予感がしました。

 開演時間が近づくにつれ、通常では見ないほどのスモークが焚かれ始めます。それだけでこれから訪れるステージが光に満ちたものになることが容易に予測できました。幻想的かつバキバキの照明。それは時雨のライブの真骨頂であります。

 まだ会場がざわざわしている中、客電が突如として断絶されます。瞬間、歓声が湧きあがり、耳をつんざくようなSEが鳴り響きます。ついに、この時が来ました。

 暗いステージ。下手の階段からメンバーが上がってきます。まだ影しか見えていませんが、その力強いオーラに当てやられてか会場中で鳥肌が立つ様子が感じられます。ぞわぞわと最初の一音を心待ちにする言葉にならない声たち。息を呑む音。拍手の1つひとつが期待の泡となって弾けていきます。

 鋭角なギターの音。1曲目は「想像のSecurity」。ツアー中は「Sα・SO・RI」だっただけに想定外の開幕。慣れ親しんだこの名曲に会場中が一気に引き込まれました。何より音の力強さがハンパない。スピーカからは空気を粉々に砕いてしまいそうな、ビリビリとした波動が放たれていました。ドラムもベースも硬質というよりも、ずっと重く存在感があり、ギターはいつも以上に鋭角、鋭角、鋭角。ギャリギャリと骨に鋸の刃を擦り付けるよう。最高の音世界。そして、期待していた照明はかなり控え目で、この楽曲のミニマルな完結性とよく合っていました。あっという間に駆け抜け、すかさず「Sα・SO・RI」が始まります。ここからは照明も本領を発揮していきます。スピード感溢れる楽曲に合わせ、次々と照明が切り替わっていきます。そして、この武道館という舞台において、最高の照明を仕込んできたことがここでわかります。

 武道館の円形の形を活かし、ステージ後方の客席に這わせるように半円の照明が基本となり、そこにステージ上の6本の蠍の脚に取り付けられた照明が重なります。また、ステージ真上のかなり高いところにも一連の照明があり、そこからは会場中に雨を降らすように光が降り落ちてきます。

 極彩色と狂気的なギターの虜になっているうちに、「Sα・SO・RI」のギターソロが這い寄って来て、体を切り刻まれます。ノイズが鳴り響いたまま、「竜巻いて鮮脳」。青い渦のような照明が特徴的なこの楽曲ですが、この日の武道館には星の数ほどの渦が竜巻いていました。いつもは悪天候の大海原を思い浮かべるのですが、この日は視界に収まり切らないほどの渦の発生に、宇宙、凶悪な星空を思い浮かべました。音と光に押し潰されそうになりながら、さらに追い打ちをかけるようにこの曲のテンポアップが重なります。ズダズダズダズダという殴り殺してくるようなバスドラムに脳味噌から火が吹き出ます。

 抑制の効かなくなった電子的なギターのノイズが鳴り響き、これは…と期待に胸を膨らませます。緑色の閃光は円形の会場全方位に放たれ、縦横無尽に蠢く様はどこかいつもよりも有機的で気味の悪ささえ感じるほどでした。全ての音が鮮明に聴こえ、この素晴らしい音響で聴くと、改めてエグい楽曲だなぁと。今回の公演の全ての楽曲に言えることですが、本当に音が生々しくて純度100%の時雨を感じることができました。

 MC。TKから「凛として時雨です」を頂いたうえで、「この光景を焼き付けて」という言葉までもらいました。もう既に脳のメモリーいっぱいに音と光が刻み込まれています。鉄っぽいギターの音から「JPOP Xfile」が始まります。私が観に行ったZepp Haneda公演と同様に「イツカ見える未来」と歌詞が変わっているところもあり。キャッチーかつポップな楽曲のように感じさせて、どこか手触りの不確かさがあるこの曲で盛り上がる我々。ハンズアップしている観客たちを見ながら、強い一体感を覚えました。

 正確無比なギターフレーズから始まる「DISCO FLIGHT」の見せ場はやはり中盤のギターソロ。狂ったように乱高下するギターフレーズに泣き叫びたい気持ちになりながらも、その裏からはドラムの超攻撃的なツーバスも被さって来て、もう発狂物でした。TKと345の歌の掛け合いもいつも通り見事ですし、特にTKのシャウトには気合のようなものを感じましたね。

Enigmatic Feeling」と「a symmetry」はこの中盤を繋ぐ、非常にテクニカルな楽曲。「Enigmatic Feeling」のギターに関して言えば、まさに今回のツアータイトルでもある「蠍」を彷彿とさせるとにかく手数指数が気持ち悪い楽曲です。5人編成くらいに感じる音数の多さ。対照的に「a symmetry」はリバーブを使ったり、シンプルな「ダダダダ」というリズムが特徴的で、表現の多彩さが光ります。特にブレイクのパートでは、ピエール中野さんのドラムがとんでもないことになっていました。もう言葉では表現できないほどの、乱打に次ぐ乱打。思わず頭を振ってしまうほど、魅了されました。暗くグロテスクな世界から、青く静と動が混迷する幻想的な世界へと。ここが世界の転換点になります。

 そして私がもう夢中になっているのが「sick mind B rain」。「Enigmatic Feeling」や「a symmetry」が非常にテクニカルな楽曲だとするならば、この「sick mind B rain」は力、力、力。切なすぎるギターストロークから始まるこの楽曲は、徐々に体温を上げていき、狂気のナイフを懐から静かに取り出してきます。雨が降るようなライティングはこの曲だったでしょうか。冷たいに打たれているかのように、この曲はあまりにも悲痛で。荒れる夜の海に向かって絶叫しているかのよう。TKの絶叫に合わせて、照明が連続で瞬きます。繊細な心を表すような青い光に、狂気の緑が混ざり、終盤は1分近く照明がばちばちばちばちと点滅を繰り返しました。視覚的にも聴覚的にも脳味噌が破壊されそうになりますが、それ以上にこの楽曲の世界観が心を抉ってきます。

 で、ここに続いたのはまさかの「Acoustic」。会場中でキャンドルを焚いたかのような、黄色い照明がとても静謐な雰囲気を作り上げていました。ゆったりと楽曲は始まりますが、中盤ではハーモニクスの嵐が巻き起こり、また一味違った時雨を堪能できます。そう言えば、ここまで歌のない楽曲は久しく出していないな、と思い至ります。初期にはかなりチャレンジングなことをしていたんだな、と再認識。3人の楽器の音だけで、ここまで幻想的な雰囲気を作り上げられるのだなと本当に感心してしまいます。この曲を聴くたびに、私はどこか「宇宙創生」のようなものを垣間見るのですが、皆様はいかがでしょうか。

 ここでドラムMC。Xのトレンドまとめで「Gt&Vo TK, Ba&Vo 345, Dr pi-ka-chu」となっていたことに触れつつ、いつものコール&レスポンスで会場を楽しませてくれました。MCの流れで、そのままドラムソロに入ります。会場の明かりが落ちて、ピエール中野さんに光が集中し、超新星爆発を起こしそうなくらい輝いていました。というところに、TKと345も合流してきます。

 ドラムソロ終盤。いつものように、ズ・タ・タ・タ、ズ・タ・タ・タ…とテンポが落ちていき、「お、これで最後にまたドタドタドタドタと畳みかけるやつね」と思っていたら、まさかのそのまま次の楽曲へ。いつもと違う演出に戸惑いながらも、まさかの「replica」。ずっとやって欲しいと思っていたこの曲。確かにドラムソロから繋げるならこの曲だよな、という感じ。「replica」は凶悪なドラムのビートと、345の浮遊感溢れる楽曲が最大限に楽しめる曲です。なので、「これぞ凛として時雨」と言っても過言ではない曲。キレッキレの演奏で、これまでずっとやって来た定番曲みたいなクオリティで駆け抜けていきます。

 そして、曲終わりにドラムソロの続きの「ドタドタドタドタ」が挿入され、「ドラムソロの中にreplicaが組み込まれてた!」っていう演出であることを理解。と感心している間もなく、ピエール中野さんから「ナカノキルユー!!!!」の怒号が。とんでもない熱気を引き連れたまま披露された「nakano kill you」はどんな一流のサーカスでも観られないほどの入り乱れる曲芸。超絶ハイトーンのツインボーカル。連打されるドラムに、気が狂ったようなギター。照明もたぶん凄かった。けれど、そこに記憶のリソースが割けないほどに、音の洪水に飲み込まれました。

 で、息を尽かせぬまま、「ドドタ、ドドタ」と「感覚UFO」の助走が始まります。ツアーでこの流れは知っていたはずなのに、もう何回やられてもこの曲順には少年心がときめいてしまいます。しかし、始まって見れば意外と切ない「感覚UFO」。しかし、曲が進むにつれて次第に、頭のねじが緩んでいく「感覚UFO」。この破壊されていく感覚が堪らないです。赤と緑の閃光にほだされて、今日もまた全部の感情がこの曲から溢れ出ていきました。

 ここからはラストスパート「滅亡craft」。このツアーからちゃんと好きになった曲な気がします。疲弊や寂寥に包まれた始まりですが、次第に希望を見出して、何かを掴みかける曲というイメージ。あと1mmだけ、そんな指先が何かに触れそうな感じ。それを支える重く、深みのある音たち。時雨というバンドは狂気性に満ちた楽曲が多い中で、TKのソロでやるような思索の跡を感じます。おそらくはラストに「傍観」が待っているこの公演の中で、先に「滅亡craft」が演奏されるというのがいいですね。天界にまで世界を押し上げておきながらラストには「傍観」で地の底にまで叩き落す。そういう意味でもこの楽曲が担う役割は非常に大きいと思います。

「アレキシサイミアスペア」は345の物販MC前最後の楽曲です。さっきまでの感情の海に浸かるような深みのある楽曲とは対照的に、どこまでも肉体的。いや、もちろんこの楽曲で歌われていることもかなり複雑で哲学的ではあるのですが、それ以上にテクニックが凄い。展開が凄い。いくつものエフェクターを使い分け、多彩な音で楽曲を立体的に見せ、かつ予測できない展開により迷宮に迷い込んだようになる。3次元的迷宮とでも言えばいいでしょうか。そんな意味がわからない楽曲なのに、メロディーはどこまでもポップでカッコイイ。そしてカッコイイだけでなく、しっかりと重みも感じる。間違いなくラストを飾るに相応しい、荘厳な楽曲です。

 最後の物販MCでは、いつもどおりの可愛くいじらしいおみよさん。ピエール中野さんとのやり取りもあり、何かいつもよりもウキウキした雰囲気を感じ取りました。

 MC明けは「abnormalize」、「Loo% Who%」、「Telecastic fake show」という怒涛の展開。もはやこの辺りの記憶はありません。ただただ楽しくて、もう全ての記憶や意識を失ってもいいや、という感じで体を揺らしておりました。これだけ美しい音、凶悪な光、それがもう少しで終わってしまう。それが悲しくて、でも悲しいからこそ、悲しいと思っている暇はなくて。いつだって私を魅了してくれる「凛として時雨」というバンドにはもう感謝の念しかありません。どの曲も素晴らしかったですが、特に「Telecastic fake show」においてはギターの音があまりにも暴力的で、鼓膜が吹っ飛ぶようなギャリギャリ感でした。もしかして「傍観」をやらずに、このまま終わるのか。と思ってしまう程に、終末感がハンパなかったです。脳味噌が壊れました。

「Telecastic fake show」が終わった後も、3人が捌けることなく、ここで私は安堵の息を吐きます。珍しくTKがMCをしてくれました。時間があっという間に過ぎて行ってしまうこと。自分の作った音楽でも、抱きしめていないとすぐに逃げて行ってしまいそうになること。それから、「よくこんな僕と一緒にバンドやってますね」とメンバーに問いかけていたのも。どれもが、あれだけ激しく狂った楽曲を作っている、やっている人からの言葉には思えなくて、でもそれがどこまでもTKっぽくて。最高のMCでした。

 そして「傍観」。まさに「傍観」するように全員が立ち尽くして、音を浴びるだけの楽曲。ノる、とかではもはやない。ステージ裏の通路にも殺人的な赤色が灯り、廃墟で歌っているような様相。荒れ狂うギターは、もはやメロディーとかそういう概念でもない。シャウトは、シャウトなんて音楽的なところを通り越して、もはやただの叫び声。だからこれが音楽的な体験なのかどうかもよくわからなくなってくる。ただ、全裸の感情を殴り続けられる。でも、そこに安心感すら感じる。今日もまた凄いものを見て、家に帰ることができる。その幸せを噛み締めました。

 

 終演後、ほわ~と放心状態になっているところに、TK from 凛として時雨の武道館公演のビラを受け取ります。来年の全く同じ日に。今日がソロコンサートのプロモーションだとしたら最高のプロモーションだよな。こんな最高のステージを見せられたら、また行きたいってなる。ましてや、TK from 凛として時雨は照明もまた美しい。

 凛として時雨が自分の人生においてどういうものだったのか、というのはなかなか定義が難しいものです。全てが嫌になっていたときに、「音楽」という救いを齎してくれたのが時雨であり、初めての出会いからもう10年以上も経っているわけですが、未だに私を魅了して離しません。時雨に出会ったから、色々な音楽や芸術など、素敵なものを探すようになりました。それまでの「全部どうでもいい」と思っていた人生の中で、何か素敵なものがまだ見つけられるんじゃないかと思わせてくれたのが時雨でした。

 沢山の素敵なものを観てきました。時雨は変わらず好きだけれど、新しく知った自分の感性の突先みたいなものを再認識できるような、そういう素晴らしく刺激的なライブにも出会いました。「時雨はもう知り過ぎているし、新しい刺激というよりは、親しみと言った方がいいかもな」となんか倦怠期の夫婦みたいなことを思ったこともありました。が、やっぱり今日のライブを観てみて、「私にとっての1番は、時雨だ!」となりましたね。こんなにも美しいものは人生の中でも観たことがありませんでした。

 だから、冒頭にも書きましたが、人生のベストライブを更新したように思います。今日観た光の海、音の洪水は絶対に忘れることができません。映像収録も入っていたようですので、これは何としても映像作品化してほしい。そして、余すところなく全てをもう一度心の深いところまで刻み込みたい。そう強く思います。

 それでは、また来年のソロライブに向けて、しっかりと愛を育んでいきたいと思います。