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音楽や小説など

凛として時雨 全楽曲レビュー vol.2

前回、当時時点の全楽曲レビューということで、活動開始から7th singleである「Neighbormind/laser beamer」までざっと書かせていただきました。10万字にも及ぶ無駄に長いものになりましたが、熱意だけは詰め込んだつもりです。

 

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そして、2023年4月には7th albumとなる「last aurorally」の発売が控えている今。前回記事から溜まっていた分をまとめておこうと思い立ち、こうしてキーボードをカタカタと打っているわけです。

それでは早速いってみましょう~

 

 

6.コロナ禍での模索

前回記事では2019年7月に発売の「Neighbormind/laser beamer」までを記事にまとめました。その後、コロナ禍に突入するまでにソロプロジェクト(TK from 凛として時雨)の方で何作か発表はあるのですが、凛として時雨としての活動はここで一旦区切りを迎えます。楽曲制作という面だけで見れば2018年に「#5」を発表しているので、ここから3~4年は新しいアルバムが出て来なくても、いつものペースト言えばいつものペースであるわけですが。

コロナ禍によるTKへの心理面での影響は、主にソロプロジェクトの方でわかりやすく発露されています。特に「yesworld」はもろにコロナ禍の悲痛が歌詞となっていますし、コロナにより急遽中止となったツアー「SAINOU TOUR」を無観客で撮影し、オンラインライブとして公開したのはコロナ禍を受けての初の試みでした。しかしながら、ここでの経験を経て、凛として時雨の方でもオンラインライブを無観客/有観客で配信してくれましたし、毎年何かしらのトピックがあったのはファンとしてとても嬉しいことです。

そしてTKのアーティストとしての才能・信頼感も確立されたのか、時雨とソロの両面から安定的な活動が見られました。特にタイアップと、自発的な制作活動がおよそ半々くらいでできているということは、何とも喜ばしい事です。求められているし、自分で好きなこともできている……最高じゃあないっすか。とは言え、自発的な活動として特別まとまった作品はコロナ直前に制作された「彩脳(2020年4月発売)」以来無いので、いよいよ新譜の「last aurorally」が楽しみというわけです。

 

◆「melt」、「蝶の飛ぶ水槽」(TK from 凛として時雨

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「melt」はヨルシカのsuisさんがゲストボーカル的に参加している楽曲になります。しかしながら、ちょうどお金かスケジュールかの問題で、レコーディングでは楽器の演奏者を招くことができなかった楽曲でもあります。故に、ドラムやベースなどもTK自身による打ち込みで作りこまれており、非常にTK成分が高い楽曲になっています。親和性が高く美しいボーカルになっており、終盤のノイジーなギターフレーズもらしさがありますね。ただ、TK自身もどこかで言っていましたが、自分の打ち込みでドラムを入れると想定通りのものにしかならず、創作においてはあまり刺激を感じられなかったということです。「次にどんなフレーズが来るかわかってしまう」という感じの事を言ってましたね。個人的にも上手くこじんまりとまとまっている楽曲という感じがあり、時雨の奇想天外な感じはあまり感じない楽曲のように思います。美しい楽曲だとは思いますが。

 

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「蝶の飛ぶ水槽」は、アニメ「pet」の主題歌にもなりました。原作は色々な漫画やアニメに影響を与えている作品ということで、そんな大作のタイアップなのでテンションが上がりました。私も原作は見ていなかったのですが、アニメを観て、そのやや難解で非常に心理的な描写が鋭い作風にはとても惹かれました。TKの作り出す楽曲との親和性も高く感じます。が、そういった部分を排しても、この「蝶の飛ぶ水槽」という楽曲、とても好きなんですよね。楽曲の構成も複雑でニヤニヤが止まらない感じなんですが、何と言ってもサビのキャッチーさが大好きです。ライブでは非常にノイジーかつ煌びやかなギターの音も堪能出来て、テンションが上がる楽曲ですね。シングルCDには、「katharsis(Co shu Nieの中村未来さんとコラボ)」や「Fu re te Fu re ru」のライブ音源も収録されていて非常に豪華な1枚となっています。何気に収録されている「蝶の飛ぶ水槽」のInstrumentalも好きです。

 

◆「彩脳」

私はこの「彩脳」というアルバム、本当に大好きなんです。後に制作ドキュメンタリーも映像化されますが、とにかく色々な人とのコラボレーションが実験的になされていて、それぞれに非常に特徴のある楽曲が1枚のアルバムに収められています。表題曲の「彩脳 -Sui Side-」は「東京喰種」のタイアップ曲の候補として作られたもので、惜しくも「katharsis」に負けたものの、楽曲としては「katharsis」以上に攻撃的でどちらかと言えば時雨らしい楽曲となっています。こちら「Sui Side」という副題が付けられていますが、これは「東京喰種」の石田スイ先生が作詞をしていることから、おそらくはSuicideとかけて名づけられています。後にTK自身が作詞したバージョンも発表されており、やはりTKが作詞したものの方が音に対してのノリは良い感じがしますね。が、「Sui Side」もなかなか時雨楽曲では聴けないようなぐにゃぐにゃしたようなうねりがあり、結構好みではあります。

このアルバムはどれも名曲ぞろいではありますが、「鶴の仕返し」が中でも私のお気に入りです。鶴田さくらさんというトラックメーカーの方との共作のようで、確かに打ち込みっぽい重たいビートを感じます。しかしながら、河野さんの弦楽器のアレンジを始め、かなりエグ味が効いています。序盤はシンプルなピアノのリフレインにテクニカルなドラムのリズムが絡み合う感じですが、終盤にかけてカオスなうねりとなっていくのがとてもTKっぽいです。このアルバム全体のコンセプトではありますが、コラボした方々の多様な個性を飲み込むTKの圧倒的な個性が感じられて良いんですよねぇ。それでも確実に楽曲の幅は広がっていると感じますし、どちらかと言えば、内に閉じて深く沈み込んでいきがちなTKの楽曲群の中では、外に開いていくような雰囲気を強く感じられて新鮮な感じがして嬉しいのです。今後の作品にも期待が持てるという意味でも。

 

・SAINOU

ちなみにアルバムツアーも計画されていましたが、ちょうどコロナにぶち当たりツアーは中止。代わりにアルバム制作ドキュメンタリーと、ツアーリハーサル映像が配信されました。色々な人がTKを絶賛してくれているので、ファンとしては見ていて嬉しいものになっています。TKの楽曲制作への向き合い方や、レコーディングの様子なども見ることができ、最高ですね。そしてアルバム発売から4か月ほど経った後には、配信ライブもやってくれました。コロナ禍で様々なアーティストが配信ライブをやり始めている中、この「SAINOU」という配信ライブはもう照明から音響から完成度が高過ぎてかなりビックリしました。この配信ライブ含めて私はアルバム「彩脳」が大好きになりました。

 

◆Remastered album「#4 -Retornade-」

こちらは名作「#4」をリマスターしたアルバムで、発売から15周年を記念して発表された作品になります。前回記事でも書きましたが、凛として時雨のバイブル的なアルバムであり、歴史を語る上では外せない作品なのが「#4」。しかしながら「凛として時雨を遡って調べよう!」と思って「#4」を聴いた人にとっては、やはり近年の作品と比べるとやや低音が軽く、全体的に粒が荒い印象にはなっていたと思います。もちろん当時のインディーズ感満載の音像も良いのですが、もう少し現代的な音質で聴いてみたいという人にとってはこちらの「#4 -Retornade-」がオススメです。

ちなみに私の浅い音楽知識から「リマスターって何?」について説明させていただきますと、「マスタリングし直した!」ということになります。「いやそもそもマスタリングって何?」って感じだと思いますが、楽曲制作においては、まずマイクのような録音機材に向かって音を鳴らし、レコーディングをする必要があります。大昔はギターからベースから何まで全員で1本のマイクに向かって音を鳴らしてレコーディングをしていたと思われますが、近年ではギターにはギター用のマイク、ドラムなんかはシンバルやスネアなど毎にマイクが立てられています。しかも必ずしも全楽器が同時に録音をするのではなく、楽器ごとに分けて録音をすることが一般的です。そのようにして録音した沢山の素材を上手いバランスで配合するのが「ミックス」と呼ばれる作業です。様々な食材から美味しい部分だけ切り出し、それぞれに下味をつけて、フライパンの上で混ぜ合わせるのが「ミックス」と言ってもいいかもしれません。そして、最終的に混ぜ合わせて炒めたものを最後にお皿に綺麗に盛り付けるのが「マスタリング」みたいな感じでしょうか。具体的には、「ミックス」で1つのデータにまとめられたものを、最終的なCDのパッケージに落とし込むような感じです。もう1つ別の言い方をすると、絵具を混ぜ合わせて絵を描き上げたとします。それを写真で撮影する際には、照明の当て方や使用するレンズやカメラ自体の性能、各種パラメータの設定などが重要になってきます。下手な人が写真にした場合、何となく全体の色味が白飛びしてしまうということもあるかと思います。言わば、15年前の「#4」はまだ素人に近かった当時のTKが、それでも当時の持てる技術全てを動員して撮影したものなわけです。ただ、時代が移り変わり、カメラの性能も向上し、またTK自身の技術も向上し、それによって当時よりもくっきりとした映像が撮れるようになりました。そのようにして生まれたのが「#4 -Retornade」なわけですね。はい、長くなってすみません。

15年前のガラケーで撮った写メと、最近のスマホで撮った写真ほどの差異は感じられないかもしれませんが、明らかに音の輪郭がはっきりしています。繰り返しにはなりますが、特に低音の太さ・明瞭さは全然違いますね。ミックス時点のデータはいじっていないはずですので、当時の世界観はそのままにより楽器が近くで鳴っている感じになったように思います。もちろん当時の「#4」の荒い音もそれはそれで楽曲の世界観に合っていて好きなんですが。

 

・#4 Extreaming LiveEdition

そして、こちらの「#4 -Retornade-」発売を記念して、「#4 Extreaming Live Edition」というライブが配信されました。こちらも無観客で配信ライブのためにスタジオを貸切って、時雨のメンバー3人が輪になって演奏した映像となっています。感想の記事も書いておりますのでよろしければ。

 

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ライブの定番曲で、最も人気がある(と個人的には思っている)「傍観」も映像化されており、結構びっくりしましたね。時雨はなかなかライブの映像化をしてこなかったバンドだっただけに、特にライブならではのアレンジが光る「傍観」はなおのことこういった映像作品には収録されなんじゃないかと思っていました。

 

・Acoustic Electric Session for 0

ここでまた1つ映像作品を挟みます。絶賛コロナ禍という中で、こちらもまた無観客で行われたライブ映像です。アコースティックな編成、アレンジとなっており、いつもとは違った雰囲気が楽しめます。ソロプロジェクトによる作品ではありますが、弾き語りの「Missing ling」も収録されているため、なかなかレア度が高いです。

「SAINOU」はソロプロジェクトのバンド編成、「#4 Extreaming Live Edition」は時雨本体、そして今回の「Acoustic Electric Session for 0」はアコースティック編成となっておりいずれも別々の形態での映像作品です。やれることは全てやって来ているわけです。このことからTK自身、このアコースティック編成も自らの大事な音楽表現方法の1つであるという認識を持っていることが窺えます。TKの音楽活動の形態として、このアコースティック編成もまた独特の持ち味を出していますよね。シンプルな音像になることで、TKの音楽が非常にメロディアスで親しみやすく、胸に良く響くものであることが再認識できます。

コロナ禍で活動が制限されている中ではありますが、今まで自分が積み上げてきたことを全てやり直してみることで、何かを確かめているような雰囲気を感じ取れます。そしていくつものTKの作品を通して見ることで、大切なものがこの世界には確かに残っているということを私たちもまた感じ取ることができるのだと思いました。

 

◆7th single「Perfake Perfect」

こちらの楽曲はPSYCHO-PASSの舞台、「Virtue and Vice 2」の主題歌としてタイアップされた楽曲です。

 

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舞台で何度もかけられることを想定して、サビのフレーズが何度も繰り返される楽曲構成となっているのが特徴的ですね。ソロの「12th laser」という楽曲は全てがサビみたいな楽曲の構成でしたが、それに近い執拗さでキャッチーが溢れています。と簡単に言い切りたいところではあるのですが、この楽曲には正直どう乗って良いのかわからない謎のパートが差し込まれています。

嘘?本当の嘘?本当?嘘?それって嘘?

というパートはコード感も、メロディも不明でとにかく不安定な音色が続きます。この狂ったような部分がある意味ではPSYCHO-PASSらしいとも言えます。PSYCHO-PASSは刑事ドラマとしても楽しめる部分が大きいですが、やはりSFっぽいどこか哲学的な問を含んでいるのが特徴的な作品。ですから、キャッチーなサビとこの不可思議なパートがお互いに噛みつき合っているこの構成がしっくり来るのです。

舞台中ではインストが使用されるため、それ用にバイオリンやピアノのアレンジが加えられたバージョンも制作されており、きちんとCDには収録されています。このインストバージョンがまた良いんですよね。ソロプロジェクトで培った弦楽器とピアノの織り交ぜ方をふんだんに活用して、かなり完成度が高いものとなっています。ボーカルが無いことで楽器1つひとつの音色がかなり聴こえやすくなっており、かつバイオリンがメロディを保管してくれているので物足りなくも無い。できれば今後の楽曲全てでこういったインストを作成して欲しいと思うほどです。

 

・Perfake Perfect Tour

コロナ禍は継続しているものの、少しずつ有観客ライブが解禁され出しました。時雨も周囲と足並みを揃えるか、それより少し早いくらいのタイミングで有観客ライブツアーを始めてくれましたね。歓声もNG、隣席は空席という状態ではありましたが、それでもライブをやってくれたのが嬉しかったです。久しぶりの有観客ライブ、一発目の曲が「鮮やかな殺人」というのも感慨深いものがありました。個人的には「Sitai miss me」をやってくれたのが嬉しかったですね。「TK in the 夕景」では昔の黄色いギターを引っ張り出して来て、ジャキジャキとした音を聴かせてくれましたし、おまけのリハーサル映像では「Neighbormind」もやってくれています。この「Neighbormind」がまたカッコいいんです。リハーサル映像なのにライティングもきちんとされていますし。シングルの楽曲名を引っ提げたツアーではありますが、記念碑的なツアーと言えるんじゃないでしょうか。映像化してくれたのもありがたいです。

 

◆「yesworld」

コロナ禍が始まって間もなく、TKは「彩脳」をリリースしますが、その後に無観客のライブ映像「SAINOU」も配信を行います。そして、その「SAINOU」の反響が素晴らしかったために、劇場での公演までされます。映画館の音響に合わせて再度TKが自らリミックスを行った手の込んだ企画でしたが、そこで初公開されたのがこの「yesworld」という楽曲でした。残念ながら私は映画館に観に行けなかったので、「すごい楽曲が来るぞ」という噂だけ聞いていました。

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イントロの不穏なピアノのフレーズからもうかなりカッコイイですよね。驚きなのがこの楽曲の制作にあたっては、レコーディングをミュージシャンが各自で行い、そのデータをTKがうまくミックスしているということです。TKは基本的にレコーディングに立ち会うスタイルなので、TKとしてはかなり珍しい手法と言えます。コロナ禍真っただ中ならではという感じですね。

どこへ連れて行くの?

という歌詞や、

声も 愛も 未来も 記憶も 孤独も お前には殺せないよ

という歌詞には、明らかにコロナ禍からの影響を感じますね。先が見通せない現状を「目隠しのTAXI」と表現する辺りは、さすがTKという感じですが。

CD化されたタイミングでは、ヨルシカのn-bunaさんによる「unravel」のリミックスや、さらにベースがバキバキになった「Dramatic Slow Motion」も収録されており、業かな円盤となっています。THE FIRST TAKEでのパフォーマンスも音源化されていて、こちらも素晴らしいです。

 

・TOUR 2021「yesworld」

こちらもまだ歓声NGのツアーではありますが、前回の「Perfake Perfect Tour」と比べるともう少し、新しい形でのライブパフォーマンスに演者側も観客側も慣れている感じが見受けられますね。このツアーでは「phase to phrase」が演奏されたのが私的には嬉しく、また表題曲の「yesworld」では刺激的なプロジェクションマッピングも観られ、満足度の高いライブとなっています。この辺りから、もうライブをしたら配信もされる、というのが確固たる流れとなって来た感がありますね。コロナが終わってもこの試みが継続されるのではないかと思わせてくれました。そして、現にその流れは2023年の今でも続いています。

 

◆「will-ill」、「egomaniac feedback」

「will-ill」は言わずと知れた名作「コードギアス反逆のルルーシュ」の再放送版とのタイアップ曲です。が、タイアップの宿命である1:30という短い時間では表現しきれないほどの濃密な5分越えの超名曲となりました。

 

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MVの映像美もハンパないです。

私の中では「film A moment」にも匹敵するくらい好きな楽曲です。とにかく音の洪水という感じで、展開も多岐に渡りますし、TK特有の静と動が素晴らしく織り交ぜられています。この音の積み上げ方はTK以外にはできないだろうな、という気がします。タイアップということでキャッチーでもありますしね。そういう意味では時雨らしさも感じられます。

「egomaniac feedback」はソロプロジェクトのベストアルバムのような位置づけで、収録曲を振り返ってみると、本当にどの楽曲もレベルが高く、色彩に富んでいると思わされますね。また数多くのタイアップも務めてきたことを振り返ることができます。そして、こちらのベストアルバムは3枚組になっており、Disc1がTKメインで制作された楽曲群、Disc2がコラボ作品群となっており、このDisc2は新録曲が3曲も含まれています。中でも「掌の世界」はSMAPへの提供楽曲のセルフカバーとなっており、UNISON SQUARE GARDENの斉藤さんを招いてリアレンジされています。これがカッコイイんですよね。

そしてDisc3には、ソロプロジェクトの始動となった映像作品「film A moment」も収録されています。「film A moment」についてはこちらに記載していますので、参考までに。

 

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WOWOWで放送された「10th Anniversary Session」も素晴らしい出来ですので、この「egomaniac feedback」は必ず購入しておきたい一品となっています。

 

・egomaniac feedback Tour

映像化されたこちらのツアーファイナル、私も国際フォーラムに観に行っておりました。素晴らしいライブであったことは言うまでもありませんが、色々と面白いこともありました。1つ目は、TKの音楽に対する想いが聞けたこと。時雨のライブではほとんど喋ることのないTKですが、ソロプロジェクトのライブでは色々と喋ってくれます。この日は、ソロプロジェクト10年目ということもあり、ここまでこのソロプロジェクトが続くとは当時は考えもしなかったと語っていました。そして、時雨(ソロプロジェクト含む)から離れてしまう瞬間もあるかもしれないけど、いつまでもステージで待っているので、また聴きに来て欲しいとも。

そして2つ目は、ダブルアンコールをしてくれたこと。1回目のアンコールの時点で「film A momet」が演奏されていなかったので、「やってくれないのかな…」と少し不安でしたが、逆に言えばダブルアンコールの予兆でありましたね。そんなわけで大満足の内容でした。3つ目は伝説の「will-ill」のやり直しです。アンコール前、最後に演奏されたのが「will-ill」だったのですが、機材トラブルで思うように演奏できなかったTKが急遽やり直しを決めたようでした(現地で聴いていた私はもう音の洪水に溺れてトラブルがあったことなんて気づけませんでしたが)。アンコール、だいぶ待つな、と思っていると、もう1回「will-ill」をやらせてほしいということで、再演がなされました。この時の舞台裏も映像には残っているので、ぜひ確認してみてください。

 

◆「As long as I love / Scratch」

この2曲はB'zの稲葉浩志さんとのコラボ楽曲です。

 

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「Scratch」の方は、マジック・ザ・ギャザリングとのタイアップ楽曲でもあります。

 

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※こちらの楽曲で使用されている音源はフルサイズではありません。

TKはもともと学生の時にB'zのギターをコピーしていたそうなので、今回のコラボはかなり胸熱のものとなりました。稲葉さんの鋭く、圧の強い声と比べると、やはりTKの声は若干柔らかい印象がありますね。それでもよく楽曲の中でよく親和していて、裏声のパートなんかはどちらの声か一聴して判別しにくいところもあります。

攻撃的でアップテンポな「As long as I love」と、バラード調の「Scratch」という違った良さのある2曲を出してくれたのがありがたいですね。それぞれに良いところがありますが、どちらかと言えば「Scratch」の方が2人の歌声を堪能できるのではないでしょうか。間奏にはTKらしい轟音のギターも入って来るので、そういう意味でも私は「Scratch」の方が好きかもしれません。ただ、「As long as I love」の方は、歌詞が稲葉さんとTKの共作になっているので、いつもの時雨とは少し違った世界観が垣間見えるのでこっちはこっちで刺激的であります。

 

・feedback from

TK from 凛として時雨の初の映像作品で、先の「TOUR 2021 yesworld」と「egomaniac feedback」のライブ映像が収録されています。そして、作品と同名の「feedback from」というコンサート映像からも数曲、期間限定で配信が為されました。りぶさんに提供した「unforever」のセルフカバーと、ソロプロジェクト用にアレンジされた「abnormalize」というかなりレア度の高い楽曲たちが配信されました。どちらも素晴らしい出来で、感動モノです。特に「abnormalize」は前半部分をTKがギターを置いていることもあり、2017年頃にBOOM BOOM SATELLITES中野雅之さんと結成されたPANDASを彷彿とさせます。かなりEDM的なアレンジになっており、新鮮味もある一方で、後半は当然のようにギターを持ち直し、破壊的なソロを響かせてくれます。

 

◆「竜巻いて鮮脳」(配信シングル)

正直この楽曲の歌詞について言及したくて、この記事を書き始めたというところがございます。それくらいこの曲の歌詞は時雨ファンには堪らないものになっているんじゃないでしょうか。

 

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タイアップでもコラボでもない、純粋な凛として時雨の作品でMVが公開されたのはかなり久しぶりのことになるのではないでしょうか。余計なドラマシーンや、ダンスシーンなど不要で、刺激的なライティングのもと不可思議な構図で演奏しているというのが時雨を際立たせてくれます。

TKが運転する車でライブ会場まで夜な夜な高速道路をかっ飛ばしていたという、かつてのこんなにも売れる前の凛として時雨というバンドに思いを馳せることができる歌詞です。あの高速道路の長いトンネルを照らすオレンジ色の光って、「ナトリミックオレンジ」って表現できるんですね。TKの言語感覚ってやっぱりすごいです。

それから「神の舌触り」と出てきますが、これはどこかでピエール中野さんが言っていたように、お笑い好きだった3人がよく見ていた「ゴッドタン」という深夜のテレビ番組を指しているそうですね。私も今ではあまりテレビを観なくなってしまいましたが、未だに「ゴッドタン」は毎週録画している数少ないテレビ番組です。

目覚めればパーテーションのミーティング

硬い床が癖になるぜ

という歌詞は、いつだったかホテルの予約が上手く取れていなくて、そのホテルだったかどこかの事務所だったかの会議室で寝る羽目になったというエピソードから来ているものですね。ベッドがあるわけでもないので、長机を並べてその上で寝たとか。ただ、この歌詞によると、そのまま床で寝たという感じなので、私の記憶違いだったか。このエピソードのソースが思い出せなくてすみません。たしか昔のTKのブログに書いてあったような気がするのですが。

http://tosite.blog35.fc2.com/

もう記事は1つも残っていませんね。10年前くらいは見れていたと思いますが。

そんな昔の無鉄砲に音楽とぶつかり続けたあの頃にTKは思いを馳せているわけですが、「まだ続く脳内のハイウェイ」とあるように、今もずっと同じ理想の音楽を追いかけているのでしょうね。

楽曲としては、ディレイをかけた不穏な雰囲気のイントロから始まり、どこかこれから巻き起こるカオスの予兆となる暗雲を感じさせてくれます。そして、途中と最後で急に倍テンポになるトチ狂った展開を見せる個性的な楽曲です。この倍テンポが無理やりギアを上げるような感じがあり、アクセルを思いっ切り踏み込むような痛快さがありますね。同時に竜巻に巻き込まれたようなカオスも感じさせてくれます。

あの頃の時雨を思い出させてくれ、同時にこれから先も続いていく時雨を感じさせてくれる非常に記念碑的な楽曲だと思います。大好きな楽曲です。

 

・DEAD IS ALIVE

このツアーは神セトリということでめちゃくちゃ人気が高かったように思います。ツアーファイナルも映像化・配信されましたが、私も横浜公演に参戦してきました。まず1曲目から「Missing ling」を持って来るという掟破りを見せてくれます。ライブレポートも書いていますので、よろしければ。ぜひ。

 

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上述の「竜巻いて鮮脳」に繋げるために組まれた、高湿度で悪天候的な楽曲が連なり、素敵なライブでした。

 

◆「Marvelous Persona」(配信シングル)

こちらはドラマ「終わらせる者」とのタイアップ曲になっています。

 

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攻撃的なギターリフが何度もリフレインするカッコイイ楽曲ですが、構成的には比較的シンプルでキャッチーですよね。

Aメロ⇒サビ⇒間奏⇒Aメロ⇒サビ⇒間奏⇒大サビ⇒Cメロ⇒大サビ⇒Cメロ

って感じですし。個人的には1番、2番のサビと大サビとでコードの進行が変わっているのが好きです。大サビの半音ずつ落ちていくクリシェ進行となっていて、これが345さんの切ないガラスを薄く研いだようなボーカルとよく親和していて、胸がきゅっとなります。地味に2番Aメロの倍テンポになっているところも好きで、楽曲が中弛みしないように気を遣っているのも、TKの基本的な作曲能力が高いレベルにあることを再認識させてくれます。そして、言わずもがな全編通してギターが鬼畜ですね。

2023年4月に発売されるアルバムは結構曲者ぞろいの楽曲たちになりそうなので、この「Marvelous Persona」はノリやすく、ライブ映えしそうな楽曲ですね。強いて言うなら、このギターをTKが本当に歌いながら弾けるのかというところは見どころになりそうですが。

 

◆「first death」

こちらは大注目アニメ「チェンソーマン」のタイアップ曲です。

 

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チェンソーマン」自体、私はもとから好きな漫画でしたが、アニメ化されるにあたってめちゃくちゃ力が入れられていたのでとても楽しみにしていました。しかもエンディングが回替わりという超豪華仕様。そんな「チェンソーマン」のアニメのエンディングにTK from 凛として時雨が選ばれたのですから、テンションが上がらないはずがありませんでした。

楽曲もMVもめちゃくちゃエキセントリックで、TKが使える技術を全て詰め込んだのではないかというくらい濃密な楽曲になりました。CDにはインストも収録されていますが、インストを聴くと本当にチェンソーらしき音を入れ込んでいたり、本当に「何でもアリ」で作ったんだなという感じが受け取れます。

「脳天Saw」という歌詞はまさにチェンソーマンの姿を表現していますし、それと韻を踏む「ノーベルShow(賞)は僕のもの」もアニメに出て来るセリフと符合しています。「first death」という曲名自体もまた、姫野先輩の決死の奮闘を表しており、TKがちゃんと原作を読み込んで楽曲を作り込んでいることがわかります。アニメファンにも評判が良いようなので、時雨ファンの私としても嬉しい限りです。

 

◆総括

というわけで、コロナ禍での模索ということで「#5」~「last aurorally」の間を埋めるべく記事を書いてみました。前半はやはりコロナの影響を踏まえた内容も多くなりましたが、後半はだいぶコロナというものを意識せずに書けたように思います。半分はコロナ禍への慣れ、半分はポストコロナという時代の変化もあったかもしれません。

記事を書いていて感じたのは、TK(時雨)がコロナ禍においても、大きくフォームを崩すことなく今まで通りひたむきに活動してくれていたことへの感謝です。無観客ライブではとにかく映像と音をしっかり作り込み、私たちファンを感動させてくれましたし、有観客ライブも基本的には配信を行ってくれたため、現地に赴けないファンを掴んで離さなかったと思います。特に時雨ファンは映像に飢えていた部分もあったので、この変化はコロナのおかげとも言えるでしょう。

TKソロでのプロジェクトも目立ちましたが、時雨でも定期的にライブをやってくれていましたし、とても精力的な4~5年間だったのではないでしょうか。いよいよ発売が間近になってきた「last aurorally」も、既出の楽曲がやや多い印象がありますが、それでも新曲も何曲か収録されますしとても楽しみであることは変わりません。前回のフルアルバム「#5」からどのような進化がなされているのか。「#5」が素晴らしすぎたが故に今回のアルバムにもつい大きな期待をしてしまいます。アルバムが発売されたらまた記事を書きたいですね(結構大変なので書けるかどうかはわかりませんが)。

それにしても2023年は楽しみなことが多いな~コロナもほぼ明ける感じがしてきましたし!私個人としてはなかなか大変な毎日なのですが、それでもこういう楽しみを胸に日々、腐ることなく生きていきましょう!