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モーニング娘。'19「KOKORO&KARADA」レビュー ~楽曲構成による錯視~

モーニング娘。'20の68th single「KOKORO&KARADA」のレビューをさせていただきます。

 

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※発売日が年明けということで、'20名義で上は書かせていただきましたが、私がこの記事を書いているタイミングは絶賛'19名義で活動しています。

 

サムネのまーちゃん可愛い!

ということで始めていきます!

本楽曲はつんく♂さんが作詞・作曲、そして大久保薫さんが編曲ということで、もはや説明不要のゴールデンコンビ(この表現は古い…?)なわけであります。例によってモー娘。的EDMを堪能することができます。

あぁ、そして15期メンバー初参加のシングルでもありますね。忘れていたわけではありませんよ。ただ、新メンバーであることを忘れてしまうくらい、もうグループに馴染んでいますよね。MVでソロカットになったとき、ちょっと初々しいかな、と思う場面もありますが、決して悪目立ちしているわけではなく、むしろ達人ぞろいの現モー娘。においては良いアクセントになっています。卒業加入のあるグループだからこそ、こういう良い意味での「ちぐはぐ」を楽しむことができるというものです。もう言い尽くされていますが、卒業・加入という制度を作り上げたモー娘。つんく♂さん)は偉大ですね。特許くらいとっても良さそうなものです(モー娘。以前に卒業・加入という制度を取り入れていたグループがありましたら、ごめんなさい)。

 

さて、今回も歌詞ベースで楽曲の構成を振り返り、この楽曲の個人的に「良き!」と思ったポイントを紹介していきたいと思います。

まずは、歌詞ベースで掘り下げていく前に大まかな楽曲の構成を以下にまとめてみます。

 

intro1 (8) ⇒ intro2 (8)

A1 (8.8) ⇒ B1 (8.8) ⇒  inter1 (8) ⇒ C1 (8.8.2) ⇒ inter2 (4)  *inter2=intro2

⇒ A2 (8) ⇒ B2 (8) ⇒ inter3 (8) ⇒ C2(8.8.2)   *inter3=inter1

⇒ inter4 (8.2) ⇒ C3 (8.8.2) ⇒ outro (8)   *outro=intro1

 

と表せますかね。

一応表記方法について説明すると、「A1=Aメロの1番」、「(8.8)=8小節+8小節=8小節2回しの計16小節構成」となります。また、「Cメロ=サビ」となりますのでご注意を。

こうして数字を書き出してみると一目瞭然ですが、1番が終わるまでは、8小節×2をintro, A, B, Cと使用しており、かなりわかりやすい構成と言えるのではないでしょうか。しかし、まず気になるのはCメロ(=サビ)に余計に「2小節」付け足されていることでしょう。たった2小節ですが、こういう変化は楽曲を立体的に魅せるうえで非常に重要です。つんく♂さんとハロヲタが大好きなセリフが無い本楽曲において、この「余計な2小節」は、数多のハロプロ楽曲の中において、この楽曲がこの楽曲たるアイデンティティになっていると言っても良いかもしれません。

さらに、2番に目を移していくと、A, Bメロが「8小節×1」となっています。1番に比べると半分の長さになっていますね。これもポップスにおいては常套手段であり、楽曲の展開を早め、中弛みさせないために有効なテクニックになっています。Juice=Juiceの「『ひとりで生きられそう』って それってねぇ、褒めているの?」でも同様のテクニックが使用されており、以前レビューも書かせていただきました。よろしければ読んでやってください。

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しかし、こういう小節数の調節を見ると、作曲者がどのようにこの楽曲を見せたいかということがよくわかりますね。つまり、今回もまた決してキャッチーとは言えない、EDM感の強い楽曲ではありますが、「あくまでポップスでありたい」という意図が伝わってきます。1, 2, 間奏, 3番というポップス構成も用いられていますし、ビートの組み方やメロディラインがキャッチーでないというだけで、その骨組みはポップスなわけです。ありきたりな比喩を使えば、「スタンダードな鉄筋コンクリート造の建築物ではあるけれど、内装や外装が特殊!」というようなものですかね。

そして、さらに本楽曲の構成上のポイントは「繰り返し」です。この楽曲を聴いてまず思うのは、「また変な楽曲だな…」ということかもしれませんが、まぁ、それは置いておいて、「なんかシックだな」というところではないでしょうか。否定語を使って言えば、「劇的ではないな」という感じです。例えば、凛として時雨というバンドは「劇的」というところに命をかけているようなバンドで、1つの楽曲でAメロから始まって、気がついたらJメロやKメロまで出て来るような、とにかく1曲の中で色々な変化を見せるバンドであります。

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まぁ、リンクを貼り付けたのは凛として時雨の全楽曲の作曲を行うTKさんのソロプロジェクトの楽曲ですが…こちらはアニメ東京喰種:reのOPとして起用されましたが、アニメの内容さながら、最後には畳みかけるような新しいメロディが登場して、楽曲は劇的な終焉を迎えます。

と、まぁ、モーニング娘。とは全く関係ない楽曲を出しましたが、この凛として時雨の楽曲と比べると、今回の「KOKORO&KARADA」はメロディ数が少なく、これによって楽曲は「シック」な雰囲気を纏うことになります。

例えば、*マークで書いているように、「intro1=outro」,「inter1=3」, 「intro2=inter2」という風に、楽曲の展開を司るイントロやアウトロ、そして間奏で頻繁に同じメロディが繰り返し用いられています。これによって楽曲の展開は必要最小限に抑え込まれ、特殊なビートの組み方(後で説明します)、そしてちょっと聴いたことのないような歌メロを持ちながらも決して破綻することなく、きっちりとポップスとしてまとめられているわけですね。

逆に言えば、耳馴染みするフレーズやメロディを使っていても、展開を凝ることでポップスに振り切れ過ぎずにシックにする方法もあります。もちろんそれぞれの音像や、メロがシックだからというのもありますが、ハロプロ・オールスターズの「憧れのStress-free」なんかは、シンプルなメロを使いつつも構成を凝ることで一筋縄ではいかない楽曲となっています。

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こちらも以前レビューしましたが、サブタイトルがまさに私が言いたいことになっていますね。

まとめれば、J=Jの「ひとそれ」を中心点に、「憧れのStress-free」と「KOKORO&KARADA」は同軸上の逆転に位置していると言えるかもしれませんね。あぁ、そうすると「ひとそれ」も同直線状に乗ってしまうから、あまり正しい表現ではないですね。うん、正確に表現するのって難しい。とにかく、私が言いたいのは、「KOKORO&KARADA」は馴染みある楽曲展開を土台に、馴染みのないリズム・メロディを乗せた攻めた工夫が凝らされた楽曲だということです。

 

歌詞ベースで掘り下げていく前段にざっくりと!という感じで始めましたが、割と長くなってしまいましたね。ここからはちゃんと歌詞ベースでレビューを進めていきます。

 

まずはイントロですが、このイントロは2部構成になっており、上段でも説明しましたが、1部目はアウトロと一緒で、2部目は間奏と同じフレーズになっています。1部目はどちらかと言えば、環境音的なまさに「導入」という感じです。対して2部目はこの楽曲の「テーマ」になっているような印象ですね。このともすれば真逆のような印象を感じる2つのフレーズからイントロが構成されていることは非常に重要です。

曲名の「心」と「体」から始まり、「前衛的なリズム・メロディ」と「ポップでキャッチーな楽曲構成」、そしてこの後話していくことになる「Beat ON」と「Beat OFF」。そう言った2つの対比こそがこの楽曲の肝になっており、その楽曲精神を如実に表すイントロが用いられています。

そして、そんなイントロを経て、Aメロへ…

 

>intro1(8) , intro2(8)

>A1(8.8)

わかっているよ わかっているよ
君に甘えているだけ
わかっているよ わかっているよ
私の為ってことくらい 

 A1の前半8小節は少ないビートの上に、ファンクっぽいギターのカッティングを乗せてノリを作っていますね。後半8小節に差し掛かるところで一気にビートを足して、8ビートでテンションを引っ張ってくれます。非常にポップスらしい理にかなった構成です。

そして、もうド頭からコーラスワークが美しいです。無機質な電子音で構築された楽曲に潤いをもたらしているのは間違いなく、メンバーの美しく重なり合う歌声です。私はあまり耳が良くないので正確には聴き分けることはできないのですが、また例によって小田さくらさんのコーラスですかね。「甘えているだけ」の「いるだけ↑」っていう主旋律の逆を行くハモりがたまりません!

 

>B1(8.8)

それなのにね(感情任せ)
ジェラシーの域超えて(不安な分だけ)
ねじ曲がって(わがまま言って)
愛しちゃうんだ
本音はそうよ(愛の力に)
永遠離れたくない(限界りあるなら)
だから君は(その時までは)
そばにいてよ

>inter1(8)

このBメロではコード感が消されており、1サイクルの8小節のうち6小節が同じ基底音で構成されています。こういった部分がまさにこの楽曲を「ん?なんかキャッチーじゃないな」と思わせるところになっているんでしょう。

そして、古き良きデュエットソング的な2者のパート割がありますが、ここでは同一人物の言葉がパート分けされていると考える方が妥当でしょう。これもまさに「心」と「体」という2者の対比で見せる楽曲のコンセプトに合致した手法と言えます。言葉の内容は「対比」というよりは「類比」と言った方が正しいかもしれませが…と、まぁ、「何となく作ったらこうなった」というのではない、つんく♂さんのちゃんとした作詞における意図を感じられるので良いですよね。

あとは、「愛の力に」の「ち・か・ら・に♪」のハネる感じが、MVのほまたん(岡村ほまれちゃん)の口の動きにマッチしていて、先生から「跳ねるように歌うんだよ」と言われたからなのか、自分なりの感性でそうしたのかまではわかりませんが、とにかく素敵ですよね。コンサートのまーちゃんの音ハメしかり、人間というのは意外と「目で見て」ようやく「耳に聴こえてくる」ということが多いものです。私もMVでほまたんの口の動きを見て初めて、「あ、ここのハネる感じ良いな!」と思えました。

 

そして、ピアノが前面に出る間奏が8小節も入ってきます。1小節に4つも音を詰め込んで、タリラリタリラリ…♪と16部の一定のリズムで奏でられる旋律が緻密でありながら、伸びやかでもありますね。

が、実はここがちょっとした違和感のポイントでもあります。

というのも、まぁ、上述の「ひとそれ」しかり、例えばスピッツの「空も飛べるはず」とか「ロビンソン」とか、ポップでキャッチーな曲はBメロとサビの間に間奏がないことが多いです。Bメロのお尻でドラムのフィルインがあったり、歌がきゅうっと切なくなったり、全員でキメて「せーの!」みたいなのがあったり、そうやってテンションをぐっと上げてからそのままの勢いでサビへと入っていく。そういう楽曲が多いですよね。対して「KOKORO&KARADA」はBメロで盛り上げ切らずに、むしろパッと世界を変えるようなピアノによるアルペジオが急に現れてきます。この感じ、どこかで聴いたな…と思ったら、sora tob sakanaの「knock! knock!」でした。

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レビューも書いていましたね。この「knock! knock!」ではもはやサビ前の間奏のインパクトが強すぎて、間奏がサビみたいになっていると思ったりもしましたが、「KOKORO&KARADA」ではむしろこのサビ前の間奏が何の役割も担っていないような気にさせられます。

めちゃくちゃな要求をしますが、YouTubeで「KOKORO&KARADA」のページを開き、ぜひBメロから間奏を飛ばしていきなりCメロ(=サビ)に移ってみてください(色々と試してみましたが、キーボードで「4」を押したのち、すぐに「J」を押すと1番のサビ前にちょうどジャンプできます笑)。そうすると、「あれ?こっちの方がスマートじゃない?」って感じると思います。「楽曲が間延びするだけで何も良いことなんてないじゃないか」とすら思ってしまう方もいるんじゃないでしょうか。

ですが、「じゃあ、何のためにこの間奏をわざわざ入れたんだ?」と逆に不思議になりますよね。

その答えは…まぁ、私もよくわかりません(笑)。自分でこの記事を書きながら、何度も間奏を飛ばしたり飛ばさなかったりして聴き比べていますが、どう考えても楽曲の繋がりとしては間奏の無い方が、ずっと自然なんです。ただ、それでも私の頭を悩ませるのは、「じゃあ、楽曲全体を通して聴いたときに、間奏のあるのとないのどっちが好きか?」という自問です。「『邪魔しないで Here We Go !』にセリフがいるのかどうか」と同じくらい難しい問いです。「酢豚にパイナップルが必要なのか?」という問いとも近いかもしれませんね。ただ、私は「酢豚にパイナップル」を許せるし、入っていれば入っているで、それをきちんと美味しく食べられる人間であります。そして、一度パイナップルの入った酢豚に慣れてしまうと、パイナップルのない酢豚はやけにかっちりとしていて、面白味に欠けるように感じられたりもするものなんですよね。

ここで私が芸術なり何なりを愛する時の、ひとつ重要な態度について、丁寧に説明してくれている一節を紹介したいと思います。

 

それは(比喩的に言えば)あたかも作者が筆をすべらせるようなもので、また、この書き誤りが書き誤りであることを意識するようなものだ。たぶんそれはぜんぜん誤りでなく、はるかに高い意味で、記述全体の本質的な部分なのであろう。したがって、あたかも書き誤りが作者に対する憎しみから反逆し、作者が訂正することを禁じ、「いや、私は抹消されないぞ。おまえがへぼ作者であるうということを証言してやるのだ」と言うようなものである。

― キェルケゴール

J. D. サリンジャーシーモア ―序章―」より 

 

と、サリンジャーキェルケゴールから引用した言葉を私も又借りして引用してみました。でも、この一節は本当に好きな一節なんですよね。「KOKORO&KARADA」のBメロとCメロの間奏を「書き誤り」だなんて言うつもりは毛頭もありませんが、私はなんでかこの間奏がある方が好きだと思えるんですよね。

はい、かなり長くなってしまいました(笑)。

 

>C1(8.8.2) 

君が好きさ そう好きさ  (Beat ON) ※キメのリズム
もうKOKORO止められない  (Beat OFF)  
未来へ向かう 雲へ飛び乗って
だから君も More愛して  (Beat ON) ※キメのリズム
Yes KARADA赴くまま (Beat OFF)
太陽浴びて はためく帆のように ※4ビートで前半よりもビート感強
君が好きさ ※謎の2小節

 

だいぶカラフルになりましたね(笑)。そして、余計な言葉がたくさん書いてありますねぇ(笑)。まぁ、それくらいこのサビは重要ということです。が、言いたいことはとても単純です。「この間奏はいるのか、いらないのか」みたいなもはやちょっと哲学や思想のような話ではなく、ここでは淡々とこのCメロ(=サビ)で用いられている手法について喋っていきます。

まず、ド頭の「君が好きさ そう好きさ」の4小節はがっつりと重たい音像、そして歌メロに合わせて、ガシっとリズムのキメが入っています。テンションが上がる瞬間ですね。この部分を「Beat ON」としています。

ですが、次の4小節「もうKOKORO止められない」ではすぐに「Beat OFF」となり、肩透かしを喰らったような感じになります。そして、クラップが入ってちょっとまたギアが入っていく「未来へ向かう 雲に飛び乗って」というフレーズへと展開していき、そしてまた「だから君も More愛して」でガツンと「Beat ON」でテンションが上がります。と思ったら、また肩透かしで「Beat OFF」です。

1つのブロックの中でこれだけ目まぐるしく様相が変化する楽曲もなかなか珍しいです。ド下手な車の運転みたいな感じで、ギッタンバッコンしながらこのCメロは通り過ぎて行きます。

が、「Beat ON」のキメはもちろん盛り上がりますが、「Beat OFF」してからもピアノの旋律に導かれるように美しいメロが重なり、MVのまーちゃんお目々綺羅綺羅☆彡みたいなところもあり、素敵なサビになっていますね。そして、つんく♂さんの楽曲に慣れ親しんだファンなら、「きたきた…1番と2番では肩透かししといて、最後でちゃんと盛り上げてくるパターンね」とこの時点でにやにやほくそ笑むわけです。

と、思っていたら最後の「君が好きさ!」と気持ちよく終わった後に、謎の2小節が付いていて、「ん? んん?」となりながら、またテーマへと楽曲は戻って行くわけです。この2小節については、冒頭でも説明しましたが、上段のB, Cの間奏と同じく、違和感を感じさせるポイントになっています。これを「蛇足だ!」と言うことは簡単ですが、むしろこの2小節がある意味を考えながら、楽曲全体を俯瞰してみるのがつんく♂さんの茶目っ気を楽しむうえで非常に重要なことなんじゃないでしょうか。

あっと、最後に大切なことを言い忘れていました。

「だから君も More愛して」ってすごくないですか?

どう考えたって、音もそんなに変わらないんだから、「だから君も もっと愛して」で良いじゃないですか! 意味だってその方がきっとよく伝わります。でも、そこでつんく♂さんは音に妥協無く「More」を選ぶんですよね。はいはい、確かに「もっと」よりも「More」の方が音は僅かに良いと思いますよ。「もっと」の「と」の音が入ると、どこかリズムがもったりとして、田舎クサイ感じになりますから。

声を失ってしまったつんく♂さんですが、こういう細かいボーカルの引き立たせ方までこだわっていて本当に凄いと思います。「ディティールにこだわれない奴がタイトルなんかとれると思うな」という漫画「GIANT KILLING」の達海監督の言葉を思い出しますね。あらゆる面で出鱈目な私への当てつけだと思っていましたが、つんく♂さんのディティールへのこだわりを改めて感じて、少し自分を見直さなければならないと思いました。

 

>inter2(4)  * =intro2

>A2(8)
幸せなのに 幸せなのに
見ないフリしているかも

>B2(8)
だって急に(我慢出来ない)
突然終わり来たら(これも愛なの?)
一人でなんて(寂しすぎて)
生きられない

>inter3(8)    * =inter1

>C2(8.8.2)
君が好きさ そう好きさ
もうDAREMO止められない
恐くはないさ 二人一緒なら
そして君も More愛して
Yes KIMIGA感じるまま
全ては今日に 繋がる奇跡さ
君が好きさ

 

さて、2番は駆け足で行きますよ!

ポイントはすでにお話しした通り、小節数の少なさです。これにより、楽曲の展開は軽やかになり、キャッチー感が増すわけですね。ただ、例のB, Cの間奏はちゃんと8小節あり、そのままCメロも1番と同じく8小節+8小節+2小節という構成になっています。

それだけ話せてしまえば、あとは1番と一緒なので、ここでは歌詞について少し触れようと思います。

全体的な印象としては、「もう好きすぎて、どうしようもない! 四六時中一緒にいたい!」みたいなちょっと依存の入った子が主人公っぽいですね。1番の頭、A1のところで「わかっているよ の為ってことくらい」とあること、またB1の「それなのに」と「本音はそう」のあたりから、主人公は女性だと判断できます。が、逆に言えば、それ以外は男性に置き換えも可能であり、より人類一般へと歌詞世界を普遍化させるつんく♂さんらしさを感じます。

が、これ以上の読解はかなり難しいです…そもそも言葉が少なく、脈絡や文脈というところを想像しにくいため、もはや「格言・日めくりカレンダー」を読んでいるような感じですね。例えば、1番とラストで同じ歌詞を繰り返し使うのはJ-POPの常套手段ではありますが、Juice=Juiceの微炭酸などに見られるように、歌詞による心情の展開によって、1番とラストでは意味合いを若干変えることも可能です。

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「微炭酸」では1番とラストで同じ歌詞を使いながらも、最後に1文「今更届いたってダメ」と付け足すことで、エピソードを上手く完結させていました。言うなれば、ジブリ映画の「千と千尋の神隠し」です。主人公の千尋が両親とトンネルを歩いて抜けるシーンがありましたが、同じ映像を使いまわしていましたね。ただ、最後のシーンではトンネルを抜けきった後で、千尋の髪を結ぶヘアゴムがキラリと光ります。同じ位置に戻っているようでも、何か「しるし」みたいなものが残っていて、それが時間の流れやエピソードの展開を思い返させるわけです(あぁ! なぜこの喩えを「微炭酸」のレビューの時に思いつけなかったんだ!!!)。

今回の「KOKORO&KARADA」もそういった趣向が凝らされているのかな、と思いながら歌詞を何度も読み込みましたが、なかなかはっきりとはそういった意図を感じることはできませんでした。

ただC1とC2のサビで比較してみると、「とにかく好き!」という想いは変わらずとも、C1では「自分本位」だったのが、C2では「君と二人」という部分がやや強く出ていますね。これを同じ主人公の心的な成長と捉えるか、あるいは男女表現が曖昧なことを利用して、「C1:わがままな女の子」⇔「C2:それを諭そうとする男の子」みたいに捉えるか。まぁ、その辺は自由だと思います。しかし、C3がある以上、「C1:自分がとにかく君を好きなんだ」⇒「C2:でも、君を愛していく中で、君と二人で幸せになりたいと思うようになった」⇒「C3:とは言え、そうやって君と二人で幸せになりたい、という強い想いがどこまでも私自身を幸せにするんだな(みつを)」という心情展開として捉える方がしっくりきますかね。このように解釈することで、何となく「微炭酸」と同じような「同じ歌詞効果」を引き出せるように思います(こういう答えありきの分析というのは、やっていて若干虚しくなるものではありますが)。

とは言え、つんく♂さんの言葉は一つひとつが力強く、本当に「格言集」みたいな趣向の歌詞が多い気がしますね。そういう意味では、むしろ「美しい言葉」を音楽を利用して「違う魅せ方をする」というのが、むしろこの楽曲における「同じ歌詞の利用」の理由になるんじゃないかな、と考えています。だって、「未来へ向かう 雲に飛び乗って」とか「太陽浴びて はためく帆のように 君が好きさ」っていう言葉って、ほんとキラキラしていて素敵じゃないですか! この強い言葉たちをどのように音楽で魅せるか、そっちに力点が置かれているというのが、私のイメージするつんく♂さん像に近い気がするんですよね。

ということで、ようやく最後のサビについて書いていこうと思います! ここまで長かった…!(もちろん読んでくださった方もそうだと思いますが…!)

 

>inter4(8.2) 

>C3(8.8.2)

君が好きさ そう好きさ  (Beat ON) ※キメのリズム
もうKOKORO止められない  (Beat OFF)  
未来へ向かう 雲へ飛び乗って
だから君も More愛して  (Beat ON) ※キメのリズム
Yes KARADA赴くまま ★(Beat ON) ※さらに畳みかける!
太陽浴びて はためく帆のように 
君が好きさ 

>outro(8)   * = intro1

 

とりあえず前段の内容を踏まえるために、間奏(inter4)は飛ばします。

C3とC1を比べてみると一目瞭然ですが、「Yes KARADA 赴くまま 太陽浴びて はためく帆のように」6小節に関してビートが全く異なっていますC1では肩透かしで「Beat OFF」となっていたところですが、ラストのC3では「Beat ON」となり、ノリやすい8ビートが用いられています。これによって、楽曲はこれまでで一番の盛り上がりを見せることとなっています。この楽曲のこれまでの展開、ビートの構成は、この最後のたった6小節のために!考えて構築されたものだったと言っても過言ではないでしょう!

前段でもお話したとおり、C1とC3は全く同じ歌詞が使われているパートになります。J=Jの「微炭酸」では歌詞中における心情・ストーリーの展開と、最後の1文を付け足すことで、同じ歌詞を違う意味に変えるマジックを紹介しました。

対して、この「KOKORO&KARADA」ではビートの変化によって、同じ歌詞でも「C1:幻想=夢想的」な印象から、「C3:前向きで力強い」印象へと大きく変化させています。これは音楽的に非常に重要な部分ではありますが、詩的にも非常に重要な変化であります。つまり、C1ではA1やB1の歌詞の内容を踏まえることで、主人公はやや「わがまま、身勝手、自分本位」みたいな愛し方しかできない人格のように感じられます。「C1:幻想=夢想的」と書きましたが、音楽的にもキラキラした感じが強く出ており、まさに「恋に恋している」的な恋の幻想にすがり付いているような印象が強められていると読み解くことも可能だと思います。

対して、C3ではシリアスな間奏を挟んで=苦難を経た主人公が、最後はC3の力強い8ビートに乗って、前向きに自らの愛情に対して真摯に向き合いながら、「愛」を成そうという感じが聴き取れるように思います。

このように音楽的な構成、あるいは楽曲の展開によって、いくらでも歌詞の「感じ」を変えられるのだということを、改めて思い知られますね。

さて、最後にちょっと戻る感じになってしまいますが、間奏からC3の前半について、まとめます。これもまた凄いんだから!(笑)

間奏は基本を4つ打ちとしたダンサブルなビートの上に、楽曲の中でも最もマイナー調が強く出ているシリアスなメロディが乗っているという構成になっています。この間奏を経て、C3の前半へと展開されると、どこかC3の前半が落ちサビに聴こえてきませんか? まったくC1と同じなのに!!! ふぅむ、これぞ楽曲展開によるマジックと言えますなぁ。

と、まぁ、このようにいかにこのC3を聴かせるかということが、つまり、「楽曲のラストにどんな材料を使って、どう聴かせるか」というところに、色々とトリックを用いているのが、つんく♂さんと大久保薫さんの最近の趣向が見て取れます。この記事の副題的に言わせてもらえれば、まさに「楽曲構成による錯視」と言えるでしょう。いやぁ、本当に面白いです。それはビートや楽曲展開だけでなく、結果的に歌詞の見え方が変わって来るというところも合わせて、です。

いやぁ、それにしても本当に凄いですよね~。もはやアイドル楽曲が馬鹿にできる時代ではないということは、社会全体の共通認識だとは思いますが、しかし、ちゃんと聴けばここまで深堀できるんだよ!ということがもっと広まっていけば良いなぁ、と私自身思います。私は音楽素人ではありますが、それでもきちんと楽曲に向き合えば、これだけ楽しむことができるわけです。この記事をどれだけの人が読んでくださるかはわかりませんが、たとえ誰の目に留まらなくとも、こうしてこの記事を書くことを通して、とても楽しい時間を過ごすことができました。やや、時間をかけすぎたかもしれませんが(笑)。

 

さて、いつもだったらここからMVの中で誰のどの瞬間が可愛かったとか、そういうことをつらつらと書き連ねる段になるわけですが、何というか楽曲の紐時だけでだいぶお腹いっぱいになってしまいました。というか、これでようやく何も考えずに、リラックスしてMVを楽しめるという感じです(笑)。

そういうわけで、この記事についてはこれで締めたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

 

最後に…

本当はもっと早くに記事を書きあげるつもりだったんですが、急な飲み会や会社の先輩にライブに誘われたり、まぁ、楽しいと言えば楽しいのですが、余計な予定に振り回されてこんなにも遅くなってしまいました。仕事でも色々と揉め事が合ったり…と、なんか残念ですね。記事の中では「たとえ誰の目に留まらなくても…」みたいなことを書きましたが、やっぱり書いた以上はできるだけ多くの人に読んでもらいたいじゃないですか。そういう意味では、話題の鮮度はとても大事だと思うのですが、まぁ、これも毎回の愚痴ですね。私は早さよりも熱量で勝負していきたいと思います。

まだ力が残っていれば、こちらもかなり遅くなりましたが、ANGERMEの「全然起き上がれないSUNDAY」もレビューを書きたいと準備を進めているので、何卒よろしくお願い致します。

 

追記

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書き上げました…疲れました…読んでくださったら、・・・とっても嬉しいです。