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ハロプロ・オールスターズ「憧れのStress-free」レビュー~シンプルな音像、独創的な構成~

ハロプロ・オールスターズ「憧れのStress-free」のレビューをさせていただきます。

 

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この記事を書いている現在は2019年4月15日ということで、先日にはアンジュルムが「恋はアッチャアッチャ」、こぶしファクトリーが「ハルウララ」などハロプロ関連の良曲がリリースされています。ですから、本来であればそちらの記事を書くべきだと思うのですが、何となく、この「憧れのStress-free」という楽曲のレビューを書きたい気持ちになってしまいました。ただ、時間があまりないので、さっと軽いレビューにしようと思っています。

 

◇楽曲発表当時の振り返り

ハロー!プロジェクト誕生20周年記念トリプルA面シングルの一角を飾る本楽曲ではありますが、「これが20周年記念の楽曲…?」というような意見もちらほらと見えましたね(笑)。同シングルの「YEAH YEAH YEAH / 花、蘭の時」(ヒャダイン=前山田健一さん作曲の「ハロー!ヒストリー」はAdditional Track)に関しても、ぶっちゃけそこまで話題にはならず、ハロヲタが「はぁ、もう20周年なのかぁ」と何度か首肯するような感じの手応えであったように思います(本当に個人的な意見です)。「ハロー!ヒストリー」は結構好きな人も多いようですが(私も好きです)。

と、言いながらも私としては、この「憧れのStress-free」という楽曲にかなりハマりました。一時期ずっとリピートで聴いていましたが、この記事を書くにあたってまた地獄リピートをしており、そして「やっぱこの曲は…良い!」と再認識しています。

 

◇この楽曲の立ち位置

はい。こればっかりは事務所側の判断が高度過ぎて、イマイチ理解しかねる部分があります。もしも、この楽曲がモー娘。のアルバム楽曲だったら、まぁ、意味はわかります。そうなっていたら、知る人ぞ知る、「あぁ、あの楽曲、目立たないけどなんか良いよね」的なポジションになっていたように思います。

この「憧れのStress-free」の最大の特徴は、「掴みどころのなさ」だと考えています。いや、私は一聴しただけで好きになったので、決して「掴みどころがない」というわけではありません。ただ、この曲を好きになった私でさえ、「いや、これは一般ウケしないでしょ。てか、20周年記念でこの曲は、絶対どこかからお叱りを受けるって」と思いました。

当然、事務所側でもそういう意見が出たと思います。

ですが、ハロプロの20年の歴史を考えれば、つんく♂さんの貢献は多大であり、そのつんく♂さんが作曲した「憧れのStress-free」という楽曲は入れざるを得ない部分もあったのでしょう…などと、まぁ、当たり前のことを私も考えたわけですが、それにしてもどうしてつんく♂さんがこの楽曲を推したのか?

その答は簡単です。

この楽曲が良い曲だから!です。

そして、同時につんく♂さんが今現在考えている「良い楽曲とは何か」を体現しているからだと思います。

というわけで、この楽曲の良さについて、以降で簡単に説明してみたいと思います。

 

◇シンプルかつ独創的

この楽曲の根幹にあるのは、シンプルな音像です。装飾音が少なく、ほとんどがギター、ベース、ドラム(クラップ音含む、打ち込み)、ゆるいキーボードで構成されています。ゆえに高音域の装飾音がほぼ皆無で、間奏でようやくEDM的な派手目の音が登場してくる、という感じです。リズム=ドラムパターンも比較的シンプルで、ギターはメロディとバッキングを織り交ぜて比較的自由に音楽の世界観を控えめに広げてくれています。が、ベースだけはうねるように複雑なパターンで演奏されています。とは言え、ギターもベースも歪が強く、角が取れた音像となっており、漠然と聴いているだけだとほとんど注目を惹くことはないでしょう。

しかしながら、固定的なドラムパターンとうねるベース、そしてその上に乗っかる気分屋なギターの生み出す、音楽的なグルーヴはかなり上質なものとなっており、この楽曲をスルメ曲たらしめています(スルメ曲という表現は私は嫌いですが、この場合、「じわじわと味が出てくる」という意味ではなく、「何十回のリピートにも耐えうる」という意味で使っています)。曲のブリッジのような部分では、このバラバラのパートが息をそろえて1つになる瞬間もあり、そのような同期と非同期がこの楽曲の味わいをさらに奥深いものにしてくれています。

同期と非同期の私の頭の中のイメージはこんな感じです ↓ ↓

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まぁ、上記の「ふりこ」の動画は、何というか、ただのものの喩えですね。

しかしながら、装飾音の少ないシンプルな音像、ドラム・ベース・ギターというパート割といった特徴を持つ音楽ジャンルと言えば、私が真っ先に思い浮かぶのはUKロックです。ただ、私は海外の音楽には疎いので、私の大好きな日本のロックバンドから「憧れのStress-free」に近いバンドを紹介させていただきます。

 

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Lillies and Remainsは私の大好きなバンドで、一度レビューめいたものも書いております(お酒を飲みながらやっつけで書いたので、クオリティはかなり低いですが…)。「憧れのStress-free」もそうでしたが、正直盛り上がりということに関して言えば、足りなく感じるんじゃないでしょうか。

そこで、もう1曲、もう少しだけ温度感の高い楽曲も紹介しておきます。

 

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決して劇的とは言えないですし、カラフルとも言えません。ですが、強い自制心で様式美を全うしつつ、内に秘める熱源を何とかその様式の範囲内で放出しようと試みていることが伝わっては来ないでしょうか。本当はもっと紹介したい楽曲がたくさんあるのですが、彼らのレビューの中で紹介しているので、興味がある方はそちらをご覧になってください(これはハロプロのレビューですからね…)。

 

eishiminato.hatenablog.com

 

さて、Lillies and Remainsの特徴を示すのに、「様式美」という言葉を出しました。

しかしながら、「憧れのStress-free」においては、音像こそLillies and Remainsのようなシンプルでやや冷ややかな美しさがあったものの、楽曲の構成で言えば、かなり自由な発想を用いています。

 

(Intro)

(A1-1)
本音を吐き出せない件 予定に追われちゃう件
親切 鼻に付く件 頂いて邪魔になる件

(B1)
まさにストレス 無いなら無いで済んだのに ススス ストレス
良い子でいなきゃ済むのにね ススス ストレス

(A'1)
贅沢ってきっとキリがない 上を見りゃもっとキリがない
だからつって全部諦めない だからつって平凡つまらない

(C1)
Peace Peace Peace 子供の頃戻りたい
Peace Peace Peace 真の自由感じたい AH~鳥になりたいなりたい

(ブリッジ1)

(D1)
だけど 乙女だから 越えなければならぬ山もある
だけど だけど 泣き寝入りは 絶対絶対しない
それがAH AH AH 私

(A1-2)
彼氏って言えど他人 仲間って言えどライバル
家族って言えど家族で 私ってやっぱ私

憧れのStress-free

(間奏)

(A2-1)
悪いこと考えて 作業が止まっちゃう件
良い方に行きすぎちゃって 不安に感じちゃう件

(B2)
まさにストレス 勝手に背負い込んでるけど ススス ストレス
平気な人もいるのにねぇ ススス ストレス

(A'2)
隣の芝やっぱ青くて 若い子ってなんか無邪気だし
先輩はずっと先輩で 後輩ってずっと甘えたで

(C2)
Peace Peace Peace 青春を楽しみたい
Peace Peace Peace 寝られるだけ寝てみたい AH~雲に乗りたい乗りたい

(ブリッジ2)

(D2)
だけど 乙女だから 受け入れなきゃならぬ時もある
だけど だけど 妥協だけは 絶対絶対しない
それがAH AH AH 私

(A2-2)
彼氏って言えど他人 仲間って言えどライバル
家族って言えど家族で 私ってやっぱ私

憧れのStress-free

(Outro)

 

MVから歌詞を引用してみましたが、これが意外と長い…!

長くなり多少見にくくなったので、構成だけ書き出すと、

「Intro→A1-1→B1→A'1→C1→ブリッジ1→D1→A1-2→間奏→…→Outro」です。

J-POPの基本は「1番→2番→間奏→ラスサビ」という感じですが、本楽曲は間奏を挟んで1番と2番があるだけのシンプルな構成です。しかしながら、その1番と2番のそれぞれの中身は上記のようにかなり複雑な構成を取っています。

私もちゃんと追ってみてやっと頭の中が整理できましたが、漠然と聴いていると、「なんか同じメロディがたくさん出てくる?」、「いや、でもなんかよくわかんないメロディもたくさんあるような気が…」という感じになってしまうと思います。でも、その印象は間違っておらず、かなり正しいものであります。

 

◇たくさん出てくるAメロ

イントロが終わると普通J-POPではAメロが出てきますが、つんく♂さんの場合、そのAメロっぽいやつが実はサビでも機能するというパターンが多いです。以前、レビューもした「自由な国だから」や、そのレビュー内でも参考に出した「邪魔しないで Here We Go!」はその「Aメロが実はサビだった」パターンの楽曲です。

「憧れのStress-free」で面白いのは、「A'」というパートがあること。「A'」パートでは、歌のメロディラインが「A」とは異なっているものの、ドラムパターンは「A」と同じで、ベースラインもほぼ「A」と同じです。ただし、「A」では途中に休符を咬ませることでビート感を出しており、「A'」ではその休符も単音で埋めて、やや切羽詰まったような雰囲気が作られています。「A」よりも音数を増やした「A'」を後ろに持ってくるという手法は、割と作曲の常套手段ではありますが、つんく♂さんが面白いのは「A→B→A'」という流れで、一度まったく異なる「B」を挟んでいるところです。どちらかと言えば、「A→短い間奏→A’」としたりするのが一般的ですかね。

例が上手く見つけられなかったので、とりあえず「A→短い間奏→A」の例をさっとご紹介。

 

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バズマザーズの「サンダーボルト」という楽曲ですが、この楽曲にも見られるように、「A→短い間奏→A」という構成を用いることで、「B」がなくてもきちんと楽曲を成立させることができるようになります。「B」を作曲する手間が省けるほか、聴きごたえもより軽やかにすることができます。

しかしながら、「憧れのStress-free」では軽やかになるどころか複雑になり、楽曲の流れを予測不能にしています。そして、最後のサビの位置にも「A」が出てくるため、「あれ、なんか同じようなメロディの繰り返し?」という聴き応えをもたらしています。しかし!すごいのは実は「B」・「C」・ブリッジ・「D」が「A」の合間に色々と出てくるので、繰り返し聴いてもまったく飽きない!というところです。

Cメロを作らないで有名だったつんく♂さんが、こんなにも沢山のメロディを1曲に詰め込むなんて!

サビ位置に来るのが急かすようなベースラインの「A’」ではなく、純粋な「A」を用いているというのもニクいです。個人的には、若干ですが、「A'」の方が盛り上がりが強い気がするので、サビ位置には「A'」の方を使いたいかなぁ、と思ったのですが、あえての「A」。そのこだわりがカッコイイです。

 

「D」の「AH~ 鳥に~なりた~いなりた~い」や、キメの「あ・こ・がれのっ Stress-free」も楽曲に抑揚を与えているので、とても重要なポイントですよね。

 

◇歌詞について

色々と言いたいことがあります。

・フクちゃんだったか誰かが何か(たぶんアイドル三十六房です)で、「歌詞を読んで、つんく♂さんも鳥になりたい、って思ってるんだ~って」と言っており、ちゃんと歌詞を読んでるあたりはさすがだな、と思いました。また、多分それと同じタイミングで「最近のつんく♂さんの楽曲ではイライラしてる女の子が多い」と言っていたのも印象的でした。

・「ススス ストレス」と歌詞にしてしまうところがさすがですね。

・実は楽曲の構成を把握するうえで、歌詞は重要な手掛かりになっている。しかし、1番と2番で文法が似ていても、1番(A1-1)では「~件、~件、~件、~件」としているにもかかわらず、2番(A2-1)では「~して、~件、~して、~件」と歌詞の上でも微妙な差を出してきており、工夫が見られます。

・サビ位置(A1-2, A2-2)では同じ歌詞が用いられており、ここをサビとして機能させたいというのが見て取れます。

・「憧れのStress-free」というタイトルについて。「音像はめちゃくちゃストイックに切り詰めている=ストレス」、「楽曲構成は自由自在=ストレスフリー」ということで、「憧れ」と「Stress-free」が暗に示唆されているような気がします。

・「甘えた」というつんく♂語、ではなく関西語圏の言葉が使われていて、「うん、やっぱりつんく♂さんの楽曲だな」と思わされます。

・「だからつって」という話ことばも何のためらいもなく歌詞に反映されています。

 

◇歌い方

あまりに登場人物が多い歌なので、私が言いたいことは1つだけ。

「C」の「~たい♪」のところでハロプロメンバー全員が「つんく歌唱」を全うしていることの素晴らしさ!

これだけでもハロプロ誕生20周年記念と言えるでしょう!

 

さて、色々と書きましたが、冒頭でも言った通り、時間があまりないのでこの辺りでやめておこうと思います。

皆さんも、迷曲ではなく、名曲として「憧れのStress-free」を堪能していただければと思います。

 

最後に…

アンジュルムの「恋はアッチャアッチャ」や、こぶしファクトリーの「ハルウララ」のレビューも書きたいと思っていたのですが、しっかり書こうと思うと大変なので、とりあえずさっと書けるであろう「憧れのStress-free」のレビューをしてみた次第です。

ゆえに、「さっと軽いレビューに」と冒頭で宣言したわけですが、なんだかんだ6000字近くなってしまいました。これが私のダメなところですが、それでも本当はもっと色々と深堀したいと思ってしまっています。書き始めれば止まらなくなってしまう私をどうか神よ、許したまへ。