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モーニング娘。'18「Y字路の途中」レビュー ~飯窪春奈 卒業~

モーニング娘。'18 「Y字路の途中」MVのレビューをさせていただきたいと思います。

 

www.youtube.com

 

この楽曲はわかりやすく、はるなんの卒業ソングとなっていますね。

<公式HPでの卒業メッセージ>

www.up-fc.jp

 

モーニング娘。は卒業・加入を繰り返して歴史を紡いできたグループですが、1人ひとりのメンバーがモーニング娘。としての活動の中で何かを掴み、そして新しい自分へと向けて旅立っていく姿はいつ見ても素敵だなと思います。もちろん、中にはアイドルとしての夢半ばで卒業を選択してしまったメンバーもいると思いますが。

しかし、はるなんに関して言えば、個人的には比較的「やり切った感」はあるように思います。歌やダンスも加入当初と比べれば格段に上達しましたし、ずっとお姉さん的な立ち位置でグループのバランサー&潤滑油として役割を果たして来ただけあって、今のメンバーの中では一般的なタレントスキルのようなものは頭一つ抜けているように思います。そんな彼女が「公式HPの卒業メッセージ」で、「様々な芸能活動をしていきたい」と語ってくれているのは、個人的にとても嬉しいことです。モーニング娘。で培ったものが、幅広く活きてくれることを願います。

 

さて、はるなんの卒業に関するお話は、この辺にして楽曲レビューに入りたいと思います。

 

作詞・作曲は大橋莉子さんです。なんと22歳。はるなんより年下なんですね~

私の中で大橋莉子さんと言えば、Juice=Juiceの「禁断少女」。RHYMESTER宇多丸さんも絶賛していた「禁断少女」ですが、私もこの曲大好きですね!……と、話が逸れました。

編曲には、高橋修平さんという方を据えていますが、簡単に調べてみたところ私はまだお会いしたことがなさそうです。アニソンなどをやられている方らしいですが……詳しいことはわかりませんでした。

 

楽曲の総括としては、全てにおいて上手に作ったなぁ、という印象です。

先に編曲についてですが、打ち込みのドラム、ベースは癖がなく耳障りの良い音。ピアノも途中からはあまり目立ちませんが、確実に楽曲を支えてくれています。シンセサイザーはピロピロというフレーズ担当の音、曲の主題を奏でる音、そのほか数え切れないほどの音色が使われ、楽曲を鮮やかに彩っていますね。微妙にアコースティックギターの音も入っていたり、バイオリンのような弦楽器も聴こえる気がします。また、EDMで使われそうなクラップ音やフェイザー?(ギターで言うところの)をかけた16分のビートなどもさり気なく登場したり、本当に多彩な音が使用されています。が、正直、生演奏のパートがほとんどなく打ち込みが基本のため、楽曲の派手さや豪華さには欠けるところがあります。しかしながら、決して安っぽくない。それは、さまざまな音色を適材適所で細かく組み合わせて、じっくりと編曲されているからでしょう。

特に、これまでのハロプロを良く踏襲しているような気がします。何年か前に、今ではハロプロファンの間では有名となった作詞家の児玉雨子さんが「事務所の人から何度もこっぴどく直しを喰らった」という話をしていましたが(前山田健一さんも似たような話をしていたと思います)、今回の編曲の高橋修平さんも同じようなことがあったのでしょうか笑。とてもとてもハロプロっぽい音作りになっているように思います(Google先生で検索しても「高橋修平」さんの情報があまり引っ掛からなかったので、勝手に新進気鋭の編曲者さんだと考えています)。

特に、コーラスへのエフェクトのかけ方はつんく♂さんが好きそうな感じになっていますね。特に顕著なのは、2番の後の間奏。ハロプロファンからしたらもうお馴染みの音です。歌詞はまた後で書きますが、1分4秒あたりの「小さな頃の秘密基地へ~」の辺りからは、シンセ?やコーラスへのエフェクト(これ何ていう技術なんでしょう? 名前があると思うので知りたいです!)がもろ近年のハロプロですね。

しかしながら、最初のサビ後すぐの間奏の「Na Na~」みたいなコーラスは、これまでのハロプロではあまり聴かないような雰囲気の音になっている気がします(私が今まで聞き逃してきただけかもしれませんが)。この辺りは、新たな編曲者さんを適用した効果が出ているような気がします。

不思議なものですが、こうやって要素を書き出してみると、まさにはるなんの卒業ソングにはぴったりな気がするんですよね。多彩な音は、はるなんの多才なタレントスキルを思わせますし、「これまでらしさ」にプラスした「ちょっとした挑戦」というのも、まさにはるなんのこれからを思わせてくれます。過大解釈かもしれませんが、私はどうもそう感じるのです。

 

次に、作曲について。歌のメロディは抜群です。先ほども言いましたように作詞・作曲の大橋莉子さんは「禁断少女」も手掛けておりますし、ハロプロではほかに、つばきファクトリーの「低音火傷」や「純情cm」も手掛けている方です(カントリー・ガールズの山木さん所属のカレッジ・コスモスの「言葉の水を濾過したい」も手掛けているそうです)。

美しいメロディラインは合唱曲のように、時代を選ばない普遍的なものではありますが、時折現代っぽさが零れ出てくる部分もあります。今回の楽曲では、特に1分17秒あたりの「なかったはずの」の辺りは、メンバーの歌い方も相まって、非常に現代的な響きです。「んなかぁったぁ⤵ はずぅのぉ⤵」みたいな歌い方に関して言えば、つんく♂歌唱的とも言えそうですが。その直後の「っFU~うぇ、とぅえーえったぁ~」もハロプロらしい感じです。しかしながら、それ以外のほとんどのところは癖のない、それこそ合唱的な清々しさのある歌唱をしています。事務所はこの4小節にハロプロ魂を込めたんだなぁ、と勝手に感じております。

1分36秒あたりからのBメロ最後のフレーズは、楽曲の中でも独特のメロディライン。サビの盛り上がりを予兆するような、違和感を感じるほどの長音が使われています。背後ではクラップが鳴っていますし、ほんのりとEDMっぽいんですよね。音色が全くEDMじゃないので、なかなかそう感じる人はいないと思いますが。

 

さて、最後に歌詞になりますが、まずは例によってMVから拝借した歌詞をまとめて引用させていただきます。

 

 (イントロ)

(サビ)
Y字路の途中 濃い霧のなかで
どっちを選べばいいか
さぁ、決める時が来た

(Aメロ)
バイト帰りに 寄り道して
小さな頃の秘密基地へ
あの時よりも 背は伸びたけど
なかったはずの悩みの数が増えてった

(Bメロ)
就職より 大事なのは
どう生きるか 決めること
大人たちに 問われるけど
うまく答えらんない Ah

(サビ)
Y字路の途中 濃い霧のなかで
私は今一人きり 光を探し続けてる
「この道を進め」「この道はゆくな」
どっちを選べばいいか
さぁ、決める時が来た

(間奏)

(Aメロ)
自転車押して 坂を登る
あの頃よりも キツく感じた
そのうち空が暗くなって
ライトをつけて 立ち漕ぎして 先を急ぐ

(Bメロ)
「学生気分 抜けてないね」
その言葉が 胸をえぐる
そんなつもりじゃないけれど
言い返せないこの状況 Ah

(サビ)
Y字路の途中 迷いはもうない
誰に何を言われても この思い揺らぐことない
素晴らしき場所で 輝ける自分
私の人生 私のもの
さぁ、進む時が来た

(間奏)

(サビ)
Y字路の途中 迷いはもうない
誰に何を言われても この思い 揺らぐことない
素晴らしき場所で 輝ける自分
私の人生 私のもの
さぁ、進む時が来た

(アウトロ)

 あえて歌詞の解釈など必要ないですね(バズマザーズとは違うのです)。

時期としては歌詞にもあるように「就職活動~新入社員」くらいが妥当でしょうか。もちろん、それだけには捉われない普遍性がこの歌詞にはありますが。

*ここから2段落(4段落と言った方が正確?)ほど太字のみ読んでください。それ以外は私の個人的な話です。

 

1番は就職活動をしているくらいの時期を歌っている感じですね。「就職より大事なのは、どう生きるかということ」、「濃い霧の中で、私は今一人きり光を探している」という歌詞は、昨年就活をしていた私からすると結構リアリティがあるんですよね。意外と「どういう風に生きていきたいのか」といったことを聞かれたような気がしますし、就活って別に点数が出る訳じゃないので、まさに「濃い霧の中」にいるような感じなんです。そして、「一人きり」で「光を探している」わけですが、正直、ちょっとでも光が見えたなら、すぐさまにそれに飛びついてしまうような感じもあります。まぁ、この歌詞ではそんなこと推奨してはいませんけれども。

「バイト帰りに小さい頃の秘密基地」に寄り道した思い出はありませんが(大学で上京したので、現実的にも不可能です)、面接が終わった後に、入学当初行っていたラーメン屋にふらりと立ち寄ってみたりした記憶はあります。「この道を進め」「この道はゆくな」というところも、とても共感できます。実際に、私も複数の企業の間で揺れていましたから、様々な人に相談しました。でも、人によって言うことってバラバラなんですよね。結局、決めるのは自分であって、それ以上でもそれ以下でもないということを私は就活を通して学んだ気がします。

 

2番は、実際に就職して新入社員として働き始めたくらいでしょうか。実際に私も言われました、「学生気分抜けてないね」。もちろん、私としては「社会人らしく!」という気持ちは強く持っていたんです。でも、仕方ないですよね。まだ、ほとんど社会人なんて知らない学生なんですから。とは言え、そんな風に誰かに何かを言われたところで、別に私の決意は変わりません。決意というほどのものではありませんが、もう社会人として会社に入ってしまった訳ですから、文句を言ったって仕方ないわけです。面倒でも、鬱陶しくても、「まぁ、どこかには自分が輝ける場所があるんだろう」くらいの感じで頑張って過ごしていくしかないんだと自分に言い聞かせます。

そして、これは会社に入ってみて不思議に感じたことの一つなんですが、会社に縛られている反面で、不思議と「でも、言ったって、これは自分の人生なんだし」と思うことが増えた気がします。良く言えば「自立心が芽生えた」ということかもしれませんし、悪く言えば「諦め」かもしれませんが、いずれにせよ、「私の人生は私のもの」だという感じが強まったんですね。築40年くらいの会社の寮に入れられて、カスみたいな生活をしている私ではありますが、それでも不思議と受け入れてしまっている自分がいます。もちろん不満はありますが、それでも「他人に迷惑をかけているわけじゃない」。「自分の不満をただ自分で受け止めているだけだ」という感じがするので、機嫌の良い日には、自らの現状に対して心地良さすら感じることがあります。

 

*ここからはちゃんと楽曲について書きたいと思います笑

 

と、だいぶ自分語りをしてしまいましたが、これは「はるなんの歌」です。私が彼女のの心境について語るのは、自分語りをするよりも下品だと思いますが、それでもせっかくなんで簡単にしてみましょう(以下、字面的に「飯窪さん」と書かせていただきます。「はるなん」と平仮名だと読みづらい気がするので)。

飯窪さんは、これからモーニング娘。を卒業し、肩書の半分を失うわけです(「元・モーニング娘。」という肩書は残るので、こういう言い方です)。まぁ、言ってみれば私たち一般人が「〇〇大学卒業生」という肩書となるのと似ていますね。しかしながら、芸能活動をする上で、「元・〇〇」なんて今までの延長線上で仕事をするにあたっては不利でしかないと思います。「元・モーニング娘。が女子プロやります!」とか全く別のフィールドであれば、効果はあると思いますが。

今後、飯窪さんが挑戦するのはマルチなタレント。まさに「濃い霧のなか」を進んでいくようなものです。選択肢が広い分、「この道を進め」、「この道はゆくな」と色んな人から、色んなタイミングで言われることでしょう。けれど、結局のところ大事なのは「どう生きるか」ということであり、どの仕事を選ぶかということではないと思うのです。自分の生き方をしっかりと見定めて、その上で「自分が輝ける素晴らしき場所」を見つけて欲しいと思います。せっかく様々なことに挑戦したいと考えているわけですから、絶対にどこかに飯窪さんにとっての「素晴らしき場所」はあるはずです。迷わず、挑戦していってほしいですね。

 

*解釈の助けになるいくつかの着想

・秘密基地=モーニング娘。というグループ

・私は今一人きり=モーニング娘。ではない1人のタレントとして

・あの頃よりもキツく感じた=1人で活動してみて感じる辛さ(田中れいなさんもこれを良く言っていましたね)

・学生気分=モーニング娘。で活動していたときの気分(周りには誰も助けてくれる人がいない)

まぁ、着想と呼ぶほどのものではありませんが。いくらでも読み換えが可能なので、皆さん、各々で素敵な妄想をしてみてください!

 

さてさて、最後に、MVの個人的に好きな箇所を羅列していきたいと思います!

と言っても、今回はそう多くありません(決して、悪い意味ではないです)。ほんのいくつか大事なところをしっかり書いて終わりにしようと思います。

 

まずは、いきなりですが、2番終わりの間奏からいきます。

最初にぱっと目についたのは、リーダーのふくちゃんとはるなんのアイコンタクトですね。この2人の関係性って複雑ですよね。ふくちゃんにとって、はるなんはモーニング娘。の後輩でありながら、年齢的には人生の先輩であります。それでも、活動中は「人生」云々よりも「モーニング娘。」の方が重要だったわけです。けれども、これからモーニング娘。を旅立つはるなん。そんなはるなんは、ふくちゃんにとって、より「人生の先輩」というファクターが強くなるわけですね。そのことをお互い理解し合っているような、そんなアイコンタクトを感じました。ふくちゃんの「これからはるなんは私たちの先を言ってしまうけれど、せめて私はリーダーとして華々しく送ってあげたい」という表情と、その後には決してただの後輩ではない、自信に満ちたはるなんの表情が写り、印象的な場面でした。

そして、そのまま間奏の全員とのハイタッチシーン。それまで、はるなんはどちらかと言うと、目一杯の感情を込めて、これから巣立っていく者としての自負を感じさせる表情を作っていました。しかしながら、このシーンでは、その肩の荷がふっと消えて、いつもの屈託のない「飯窪春菜」に戻っています。そういう演出なのでしょうが、それでも単なる演出ではない、素の「飯窪春奈とメンバーの関係性」が見えてくるシーンになっている気がします。本当にメンバーから慕われているんでしょうね。

さて、いよいよはるなんソロの落ちサビです。自分ができる目一杯の感情を込めて、自分の持てる全てをここに置いていこう、という感じで歌うはるなん。それはもちろん言葉で表せないくらい素晴らしいですが、それと合わせて、後ろの同期2人の表情がとても印象的です。あゆみんは、微笑みながら身体を揺らしてリズムを取り、本当にはるなんの卒業を心から祝福しているような気持ちが伝わってきます。対して、まーちゃんはどちらかと言うと寂しげな表情。大切な卒業の歌。心を込めて送り出そう、という気持ちも見えますが、それ以上にきっと悲しいんでしょうね。そんな感情の揺れがちらっと見えてくるような気がします。この同期3人のわずか数秒のシーンが、これまでの3人の7年間をしっかりと感じさせてくれました。

そして、最後のアウトロ。繰り返しと、当たり前のことは避けて、私が「はっ」とさせられたのは、一瞬だけ映るまーちゃんの笑顔たまたまこのカットがそうなのか、1つ前に書いた寂しさを全く感じさせない笑顔です。狙った演出なんでしょうか。いずれにせよ、最後の最後に、ちゃんとはるなんを「幸せな気持ちで送り出してあげたい」という心が溢れ出ているような気がします。よかった、よかった。めでたし、めでたし。

 

ということで、だいぶあっさりとですが、MVの感想を終えたいと思います。ですが、毎回レビュー後にMVを見ると新しい発見があって、追記したくなってしまうんですよね笑。まぁ、それをするときりがなくなるんで、やりませんが。

 

あと、ここから先は本当にくだらない感想なので読み飛ばしてください(今回、こういうのが多いな~汗)。

MVの歌詞が画面に出て来て、揺れている感じ。なんかDEATH NOTEを思い出すのは私だけでしょうか。死神の目を通して見た、人の名前。それからノートに書かれた文字。それらが混ぜこぜになってそんな風な印象を私に与えます。

まぁ、それだけです。なんか、思いついてしまった以上、黙っているわけにはいかなかったので、書かせていただきました笑。はるなん、ごめんなさい。

 

最後に……

すごく基本に戻るのですが、「T字路」じゃなくて、「Y字路」というところが絶妙です。「T」よりも「Y」の方が進んでる感がありますもんね。

今回は、はるなん卒業ソングということで、ちょっとレビューするのが難しかったです。レビューなんてせずに、「はるなん、卒業おめでとう!」と拍手を送っていればそれでいいようなものですからね。出過ぎた真似というのは、まさにこういうレビューのことを言うのでしょう。

とは言え、レビューをすることで、よりきちんと楽曲に向き合えている自分がいることも事実であるわけで。「ただ良い曲」と聴き流さないためにも、こうしてレビューをしてみて良かったと思っています。

それでは、はるなん、本当にお疲れさまでした。卒業までの時間が幸せであること、そして卒業してからも素敵な時間が待っていることを祈っております。